「先生ですよね。吉田先生」

ふいにその猫目がこちらに向けられて、覚えのない顔に内心首を傾げた。

「あ、はい。……ごめん、その、どこの生徒だったっけ?」

「いや、違います。あそこで試食あさってる女の夫です」

小谷の!

卒業式に一度会った顔を思い出して、俺は驚いて目も口もぽかんと開く。

そうだ、あの子は結婚したんだった!
確か、バイト先の社長さんと。

「そうか、ごめん、一度会ったね。えっと、名前は……」

「成田と言います。凌がお世話になりました」

俺の言葉に、彼は立ち上がって丁寧にお辞儀をしてくれる。
慌ててこちらも礼を返した。
さすが、若いと言っても社長だけあってしっかりしている。

「今日は二人でお買い物?」

「僕は近くに仕事で来てて。ここで待ち合わせしてるんですけど」

「ああ、そうなんだ。仲良くやってるんだね。安心した」

「あれが嫁とは思いたくないんですが」

俺はにっこり笑ったが、彼は腕を組んで溜息をついた。
そんなことを言われているお嫁さんは、試食とおしゃべりに熱心でこちらに気づく様子もない。

「先生は学校帰りですか」

「そう。買い物して帰ろうかと思ったんだけど、もうハンバーガーとかでいいかな、と」

「帰って準備するの面倒ですしね。……あ、それならあいつが来るの待っててください。クーポンだの割引だの、大量に持ってるんで」

そう言って、旦那さんは自分の前の席を勧めてくれる。
久しぶりに小谷とも話したかったことだし、俺はお言葉に甘えることにした。



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