昔からの夢だった、教師になって早数年。
三十路に入って未だ独身ということ以外は、充実した毎日を送っている。

「今日はハンバーガーにしようかな」

学校帰り、買い物をしようとやってきた某大型スーパーで、フードコートが目に入る。
食材を買いに来たものの、帰って作るのが面倒だ。
待つ人のいないワンルームのアパートを思い出して、俺は溜息をついて某ハンバーガーショップに足を向けた。

「あれ?」

食品売り場を通り過ぎ、フードコートの客席を横切ろうとしたところで足を止める。
パン屋の表に見慣れた影。
背の高い、髪をひとつに結んできりりとした大人っぽい顔立ちのあの子は。

「小谷」

呟いて、駆け寄ろうと踏み出した足が無意識に止まる。
入口近くで配布していた野菜ジュースの試飲のカップ片手に、パン屋の試食をつまんでいくその姿は食事中のようだ。
堂々としているどころか、お店のおばさんとにこやかに話している。

なんだあの子は。
高校生の頃から不思議な子だったが、もはや得体がしれない。

「ひどいっすよね」

ぼけっとその姿を眺めていると、ふいに後ろから声が掛かった。

「貧乏人ってみんなあんなもんですか」

振り返ると、フードコートにはスーツ姿の若者が座っている。
細身で色白、黒髪癖っ毛。
つまらなさそうな顔は生意気そうで、まだ二十代前半だろうが妙に人を寄せつけない威圧感がある。


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