END


同じ所から来て同じ所に帰るわけだから、当然、出勤も帰宅も社長と一緒だ。
たまに外での用事が入ると別々になるが、基本的に社長の車を使う。

「あー事務所遠いな。近くに移したい」

運転しながら社長がぼやく。
たった一時間の距離を何言ってるんだこいつは。

「だめですよ、これ以上お金使うのは」

「でも今までの家賃浮いたし」

「それ以上の出費があったのを忘れないでくださいね」

私のための買い物だったとはいえ、私が締めるとこは締めないと、この男はお金の使い方をわかっていない。

「英二にマンション売ろうかな」

「ご両親からのプレゼントでしょ。大事にしてくださいよ」

「めんどくせぇな」

社長はうっとうしそうに舌打ちする。

私的には、職場は家と離れていたほうがいい。
そのほうが公私の切り替えがうまくいくような気がする。

「それに、事務所は街中にあったほうがいいですよ。外勤にも、買い物にも」

「まぁそうだけど」

「そんなに面倒だったら、事務所に住んでたまに家に帰ってきたらいいじゃないですか」

「あんたは家に帰るんだろ。俺の世話は誰がするんだよ」

結局いつもこの理由で社長が折れる。
私がいなくて寂しいなら寂しいと言えばいいのに。

家に到着して、ガレージに車が止まる。
門へ回ってふと表札が目に入り、私は足を止めた。

「成田」と、社長と私の苗字を掲げた家。
その後行方不明になってしまった、高校時代に書いた作文を思い出す。

「いつか自分の家に住みたいです、だって」

後から来て隣で足を止めた社長が、あのときと同じように鼻で笑った。

「あっさり叶ったな」

「家族もできたしね」

私は社長の手を取って、軽く持ち上げてみせる。
彼はいつものように小馬鹿にしたような笑みを浮かべて、私の手を握り返してくれた。

空は夕焼けの名残で微かに赤く、静かに夜を迎える準備をしている。
社長がぱちんと家に明かりを灯す。
彼のおかげで、私の居場所はいつも温かい。

END


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