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「人参、大根、ほうれん草、レタス……」
「あとプランターにニラとネギね」
家を買った、と言うと仰天していた祖父母だが、張り切って庭の整備の手伝いに来てくれた。
社長も祖父に使われている。
勝手にやれ、俺を巻き込むな、と言っていたが、祖父母には逆らえないらしい。
「トマトは植えんかったのか。いい時期だろう」
「真希が嫌いだからねー」
「なんだと。子供かおまえは」
「いや、無理。無理っす」
祖父に呆れられたが、社長はこればっかりは、という顔で頑なに手を振っている。
「あとピーマンも嫌いなの」
「バラすなよおまえ」
「リョウが美味しく料理してあげたら食べるんじゃない」
調子に乗って付け加えると、隣の祖母から思わぬ攻撃をされて、私は口を噤んだ。
社長がざまぁみろという顔で笑っている。
彼の貧相な白い体は日に焼けて、まだ夏前だというのにシャツの線を肌に刻んでいた。
「あー、ついでに鶏も飼いたいなぁ。卵欲しい」
「やめてくれ。俺の家をどうする気だ」
「そういうことは、まず野菜を育てられるようになってから考えなさい」
社長の本気で嫌がる顔と祖父の窘める声に、私は素直にはーいと返事をした。
本当は、これだけもらえれば十分だ。
私は立ち上がって、とりあえず整備された庭を見渡した。
「さ、今日は終わりにしましょうか。二人とも、そろそろビールが飲みたいでしょう」
祖母の言葉に、男二人の目がぱっと輝く。
私は思わず笑みを零し、家族に囲まれた空間に満ち足りた気分で胸がいっぱいになった。
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