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言うまでもないが、もちろん家の中も満足だった。
吹き抜けの明るい玄関。
広いダイニングキッチン。続きになっている庭に面したリビング。
悠々としたバス、トイレ。それから部屋が二つ。
二階には三つの部屋とトイレ、広いベランダ。
まぁ一般的な一戸建ての大きさではあるだろうが、問題は私たちがまだ二十歳前後の若者だということだ。
これは家族連れが済むべき家であって、二人で住む大きさじゃない。
「ちなみに一括で買ったから。ローンはないから安心しろ」
私の思考を読んだように、社長が側から言い添える。
ぎょっとしたが、ほっとした。
万が一のことがあったら、私に払えるなんて思えない。
「それにしても、広くないですか。今のマンションより広いですよ」
「そうか?二人だし普通の戸建て探したんだけど」
社長は首を傾げて、後を続ける。
「もしかしたら子供できるかもしれないし。祖父さん祖母さん呼ぶときが来るかもしれないし」
「はっ?うちの?面倒見てくれるんですか?」
「他に誰が見るんだよ」
「いや、施設とか……」
「育ててもらってひでぇ孫だな。別に俺んとこは家族関係ないし、おまえが遠慮する必要ないだろ」
私がもごもごと言うと、社長は顔を顰めた。
まさか、この男がこんなことを言ってくれるなんて。
そりゃうちの祖父母には懐いているようだけど、見ての通りの性格だ。
他人の世話をしようと考えるような性分じゃない。
「なに泣いてんだよ、バカか」
「いや、だって、びっくりして」
「俺とあんたは家族になったんだろ。あんたの家族は俺の家族だよ」
驚いて出てきた涙が、その言葉に追い打ちをかけられて頬に零れる。
骨ばった細い手が、呆れたように私の頭を撫でた。
「ありがとう、真希」
私は社長の胸に飛び込む。
それを受け止めて、彼は照れた顔を隠すように私の頭を胸に押しつけた。
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