8
「早く卒業したいな」
食べ終わったお弁当を片付けていると、ふいに堀くんが呟いた。
独り言かと思ったが、彼はこちらに顔を向ける。
「そう思わない?」
尋ねられて、私は目を見開いて固まる。
話しかけられるのなんて慣れてない。
かーっと頬が赤くなって、頭がパニックになってしまう。
私が言葉を探そうと必死になっている中、堀くんは何も言わずに返事を待っていてくれた。
責める様子もなく、見捨てる様子もなく、黙って私の顔を見ていた。
「おもい、ます……」
ようやく出たのがたったそれだけで、私は思わず俯いてしまう。
しかし、堀くんは満足そうに笑って煙草を口に戻した。
会話をしたのはそれだけだった。
それからはまた、いつものようにただ隣りに座っているだけだった。
クリスマスが来て、冬休みが来て、お正月が来てセンター試験があった。
裏庭の木々は葉を落とし、風の当たらない隅に寄ったせいで、堀くんとの距離がちょっと縮んだ。
二月に入ると、三年生は休みに入った。
校舎裏に行くことも、堀くんと会うこともなくなった。
私は試験を終え、無事に合格をもらった。
その報告をしに行く時、掲示板の合格者のところに堀くんの名前を見つけた。
あとは、卒業式だけだ。
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