レイモンはミレイユの気持ちを知らない。
ただ、彼ら夫婦に遠慮して家を出ることを決めたのだと思っている。
それでも、あのときのミレイユの決意の固さを目の当たりにしたのだから、このことに関しては強気でいけないはずだ。

レイモンは深く溜息を落とし、それでもしつこく食い下がった。

「一体生活はどうするんだ。おまえがミレイユを養っていけるのか?」

「金はある。問題ない」

実家とは縁を切っているようなものだが、ヴィムにはそこから出たときに渡された土地と金がある。
それから、いわゆる国の守護神としての給料分が国から出ていた。
二人で暮らしていくには十分すぎる金額だ。
いつか家族が増えたとしても、贅沢に暮らしていける。

「おまえが出ていくとなれば、国からの援助は途絶えるかもしれんぞ」

「構わない」

「譲渡された財産にも手をつけられるかもしれん」

「そしたら仕事を探すだけさ。ちょうどいい。俺はこれ以上、カミサマには関わりたくないんだ」

「ヴィム」

レイモンは強い口調でヴィムを窘める。
苛々してきたヴィムは、喧嘩になるのも嫌で席を立った。

「王様には俺が連絡しておくよ。おまえは説教はしたとでも言っておけばいい。どうせバカ王子は俺に直接何か言ってくるだろうし」

がりがりと頭をかいて、ヴィムは金色の髪を乱す。
そのまま扉のほうへと歩いていって、ノブに手を掛けてぴたりと立ち止まった。

「別におまえが嫌で家を出るんじゃない。勘違いして落ち込むなよ。ミレイユが心配すると面倒だから」

振り返らずにそう言って、ノブをひねる。
素直じゃない、手のかかる可愛い従兄弟を見送って、レイモンは腕を組んでもう一度深い溜息をついた。

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