ミレイユ、と聞き慣れた声で呼ばれて、彼女はびくりと肩を震わせた。
顔を合わせたくなくて、この頃できるだけ会わないようにしていたけれど、レイモンは普段と変わらずにこやかな笑顔を向けてくる。

「一緒にお茶にしよう。おまえの好きな苺タルトがあるよ」

そう言って中庭から室内へ促されて、ミレイユは戸惑ってレイモンの顔を見上げる。

「今日は、アデリア様は……」

「彼女はお祖母様の家だよ。別に、アデリアに遠慮しなくてもいい。家族になるんだから」

快活に答えて、レイモンはミレイユの背中を押す。
家族。
勿体ない言葉だとわかっていて、ちくりと胸に刺さる。

アデリアは妻、ミレイユは妹。

それ以上を望んでいるわけではない。
だが、レイモンの口から思い知らされるたびに、罪悪感でいっぱいになる。

「ヴィム、おまえもおいで。腹が減っただろう」

レイモンが木陰で身を伏せて涼むヴィムにも声を掛ける。
しかし、ヴィムが動き出す気配はない。

「ヴィム、おいで」

ミレイユが声を掛けると、ヴィムはぴくりと耳を動かして、気だるげに身体を持ち上げた。

「ミレイユの言うことなら聞くのか。どっちが主人かわからないな」

その様子を見て、レイモンが可笑しそうに声を上げて笑う。
ミレイユは困った顔でヴィムに微笑む。
当の本人は、澄ました顔で二人を追い越して屋敷の中へ歩いて行った。

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