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「もう帰りたそうな顔をしてますけど、ヴィムさん。用事でもあったの?」
王子が尋ねたが、ヴィムは別に、とカップを持ち上げる。
わざとらしいそっけない様子にぴんときて、王子はにやりと笑って身を乗り出した。
「もしかして飼い主のところに帰りたいのか。せっかく人間に戻れたんだからなぁ」
ヴィムは突き合せた王子の額をばちんと叩いた。
図星か、と王子ははたかれた額をさすりながら声を上げて笑う。
「わかってるんなら呼び出すな。迷惑だ」
「連れて来たらよかったじゃないか。僕も会いたかったなぁ、君を手懐けたお嬢さんに」
「絶対に会わせねぇよ」
王子が興味津々な顔で言うので、ヴィムはぎろりと睨みつける。
「独占欲の強い君の相手は大変だろうね。心中お察しするよ」
「……実はペットが人間でした、ってだけでも戸惑ってるだろ」
「あれ?珍しく弱気だね?」
王子がクッキーをつまんで首を傾げる。
ヴィムは難しい顔で黙り込んだ。
正体を明かして二週間経つが、ミレイユの様子は相変わらず。
ヴィムも逃げられるのが嫌で、わざわざ獅子の姿を取っている始末だ。
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