ミレイユが怯えて近づいてくれない。
今までどおり接しようと努力してくれているのはわかるのだが、視線すら合わない。

「ミレイユ」

ヴィムは長椅子の端に腰掛けるミレイユを呼ぶ。
声を掛けただけで、彼女の肩が跳ねる。

「なんでそんなに離れてるの。おいで」

手を差し出すと、ミレイユはあからさまに硬直した。

ミレイユはずっとこの家でヴィムの世話をしてきたおかげで、男と接することが極端に少なかった。
年頃だし、恋の相手も家族に近い関係のレイモンだし、まるで男に免疫がない。
おまけに、今まで一緒にいたペットのようなものが実は人間でした、なんて突然明かされて戸惑っている。

だが、何度も言う通りヴィムはヴィムだ。
中身は何も変わらない。
今まで可愛がってくれた人に避けられれば傷つく。

「おいで、何もしないから」

手を伸ばしたまま、辛抱強くミレイユが近づいてくるのを待つ。

出会った頃に、ミレイユがそうしてくれたように。
優しく受け入れてくれたように。

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