少し乱暴に頭を撫でてくれる、大きくて温かな手が好きだった。
頼れる大人の広い背中が、子供のような無邪気な笑みが大好きだった。

中庭で親しげに話す二人の姿を見て、ミレイユはくるりと身を翻す。
ヴィムを探しに出てきたけれど、逢瀬の邪魔をするわけにはいかない。

気づかれないように足音を忍ばせながら室内に戻り、ミレイユは自室へ向かった。
部屋の中は片づけられて、少しの荷物が隅にまとめられている。
貴重品と着替え、その程度のものだ。

ミレイユは三日後、この家を出る。
七年暮らしたこの家は、彼女の本当の家じゃない。
十の頃に両親が死んで奉公に出されたところを、オベール家の次期当主、レイモンに拾ってもらったのだ。

ミレイユはカーテンを閉めて、外の世界を遮る。
ヴィムは部屋にも戻っていない。
一緒にいたいときにいないなんて、と愚痴っぽく思うが、これからはヴィムの傍にもいられなくなるのだ。

今度、レイモンが結婚することになった。
婚約者のアデリアは、美しく、家柄も良く、レイモンにふさわしい相手だ。

今も二人並んでいるだろう薔薇の咲く庭園から目を背けるように、目蓋を閉じる。
焼きついた楽しげな後ろ姿。
傷つく権利がないのを知っていながら、ミレイユはぎゅっとカーテンを握りしめた。

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