「おまえが出ていくと、ヴィムも寂しがるよ。なあ、ヴィム」

ミレイユの足元でタルトを齧りながら、ヴィムはレイモンの言葉を無視する。

このどこまでも面倒見の良い男は、ミレイユの配慮の意味を理解していない。
ミレイユから向けられた視線の意味に気づいていない。

自分の為に迎えられたミレイユが、レイモンに惹かれているのは面白くなかった。
しかし、納得はできることだ。
親を亡くしたミレイユを拾って、可愛がってくれる男が傍にいれば、惚れてしまうのもおかしくない。

レイモンは鈍いとはいえ、笑顔の似合う、頼りになるいい男だ。
実際、人嫌いのヴィムだって懐いて離れない。
それでも、ミレイユのことが絡めば憎くもなる。
彼女の想いに気づけと、叱ってやりたくもなる。

しかし、そんなことはしない。
ヴィムにはさらさら譲るつもりはない。
憎むとすれば身体に宿る神だ。
自分の体を取り戻せれば、この事態をどうにでもできるというのに。

「出て行くのをやめるとは言ってくれないんだな」

「……すみません。そのお気持ちだけで十分です」

レイモンでもミレイユの心は動かせないというのに、自分の存在で引き止められるわけもない。

俯いたミレイユと、視線が交わる。
その瞳は悲しみを湛えていて、ヴィムは手を伸ばすこともできずに、じっとその目を見つめていた。

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