佐伯くんとは高校が同じだけあって、地元が一緒だ。
家も二駅しか変わらない。

だから一緒に帰ることも多いわけだが、おかげであまりデートをしなくて済む。
お互いベタベタしているほうじゃないし、ちょうどいい距離だと思っている。
花音と好人くんみたいに始終一緒にいるカップルからしてみれば、「ありえない」らしいが。

「日曜日ね、好人とデートだったんだけど、可愛いカフェができてたの。今度一緒に行かない?」

講義が終わった教室に、大きな目をきらきらさせて、わざわざ花音がやってきた。
授業が終わった喧噪の中、私はテキストを片づけながら頷く。

「よかった、絶対潤ちゃんと行こうと思って好人とは入らなかったんだ。潤ちゃんも日曜日デートだった?」

こんな可愛い子にこんなこと言われるなんて、男だったら鼻血ものだ。
私は頬を緩めて、鞄を持って立ち上がる。

「日曜はバイトだったの。佐伯くんもサークルの飲み会」

「潤ちゃんたち、ほんとデートとかしないよね。あの男は何してんのよ」

「花音たちがしすぎじゃないの」

茶化すように言うが、ぎくりとする。
ぎくりとするのは、思うところがあるからだ。

佐伯くんは、人並みに会おうと誘ってくれる。
だけど、私が断っている。
大学以外で普通に会うとなれば、地元に決まっているからだ。
地元で王子とデートなんてありえない。誰に見つかるかわからない。

こいつが王子の彼女?冗談だろ?

そんな視線を刺されるのは、すでに経験済み。
自分でもそう思う。
佐伯くんがかわいそうだ。
だけど、こんな態度を取っていたら振られるのも時間の問題かなと思う。

「……花音といるほうが楽しいかも」

「か、花音も!」

ぽつりと呟いたのを聞いて、うれしそうに花音が抱きついてくる。
そんな彼女の姿に、私もこんなふうに素直だったらよかったなと思った。

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