桜がひらひらと舞い落ちていくのを、ベンチに座ってぼうっと眺める。
この大学の桜を見るのも三回目。
去年は色々あったが、今年は落ち着いて過ごせそうだ。

正面に流れてきた花びらを捕らえようと伸ばした手を、ふいに後ろから掴まれた。

「お待たせ」

顔を上げると、佐伯くんがにやりと笑う。
促されて立ち上がると、佐伯くんは私の手を引いたまま歩き出した。

「今日サークルなかったの?」

「うん。日曜に歓迎会したから」

「歓迎会したのに休みなの?」

「はは。そんなもんじゃない」

むしろ休みになってくれてうれしそうな口調で佐伯くんは言う。

佐伯くんは映研に入っている。
映画研究部。作る方じゃない。見る専門。

彼によれば暇な学生の集合したようなところで、週に一回、映画鑑賞することを主な活動としているらしい。
が、集まって飲んでるだけだろという印象しかない。
まぁ、何もしてない私が言えることじゃないが。

「今日バイトだっけ?」

「昨日で終わりました」

「あれ、そうなの。いいな。俺もやめようかな」

「なんで。佐伯くんとこのケーキ美味しいからやめないで」

佐伯くんはカフェでバイトをしている。
こっちは週四の本業で、たまにケーキを持って帰ってきてくれる。
気まぐれに短期のバイトを入れるくらいの私が、唯一真面目に働こうかなと心を動かされる瞬間である。

「じゃあ、今日どっか寄ってく?」

「へ?今日?」

「うん。何かある?」

「あー、うん。今日はちょっと……」

じゃあまた今度、とこだわりなく佐伯くんは頷く。
ちくりと胸が痛む。

一緒にいたくないわけじゃないが、デートは苦手だ。

そういうわけで、私たちはそのまま大学を出て、まっすぐ家に向かったのだった。

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