8
「そろそろ仲直りしてやったら。佐伯も参ってるよ」
呆れたように好人くんが言う。
参ってるってなんだよ、と反発的に思ったが、少し心配になる。
「怒ってないの?」
「佐伯?まぁお友達とのことは気に入らないみたいだけど、怒ってはないよ。言いすぎたって反省してる」
そう言って、バイク通学の彼は駐輪場のところで立ち止まり、近くの街頭に凭れ掛かった。
「意地張ってないでちゃんと話せよ。別れる気もないくせに」
「だって、信用してくれないから腹立つ」
めんどくさそうに忠告されて、私は頬を膨らませる。
「そりゃ、タイプって言ってた男と仲良くされたら焦るだろ。ただでさえあんたには花音の前科があるんだから」
「前科って」
「佐伯に大して興味なさそうに見えるんだよあんたは。いい意味でも悪い意味でもさ。だから簡単に離れていきそうに見えるし、あいつのほうが気持ちが強いんだから警戒もするだろ」
興味がなさそう、という指摘にぎくりとする。
ついこの間、本人にも言われなかっただろうか。
「花音みたいにふらふらすんな。佐伯は俺みたいに人間できてないから、耐えられないぞ」
「誰が人間できてないだよ」
ふいに後ろから声が掛かって、私は驚いて振り返った。
つかつかと近づいてきた佐伯くんの眉間には皺が寄っている。
少し息が乱れていた。
どうやら走ってきたらしい。
「彼氏も来たことだし、俺は帰るよ」
「ああ、さんきゅ」
「は、はめられた!」
携帯を持っていたのは佐伯くんに連絡したからだったのか!
話が通じているような目配せを交わした二人にはっとして、叫んだときには手遅れだった。
佐伯くんは私の腕を掴んでいて、近くのベンチに引きずられていく。
ちょっと待って、心の準備ができてない!
思わず逃げ出そうとしたが、すでに手遅れ。
好人くんが笑いながら、ひらひらと手を振って去っていた。
← | →