谷くんは私にお礼を言って、早足で売店のほうに去って行った。
佐伯くんはサークルの人たちのほうへ戻り、そのまま行ってしまうかと思ったらすぐに戻ってきた。

これは怒られるのだろうか。
逃げ出したい衝動にかられつつ、悪いことをしたわけでもないのでその場に留まる。

「なにしてんの潤ちゃん。なんであいつとお菓子なんか食べてんの」

前の席に座ったと思ったら、佐伯くんは威圧的な笑みを浮かべてそう尋ねてくる。
ほらきた。
私は無意識に戦闘態勢に入る。

「偶然会っただけだよ。谷くんも言ってたでしょ」

「タイプだって言った人とこういうことされると嫌なんだよね」

「こういうことって。ちょっと話してただけじゃない」

「それが嫌。やめてほしい」

「紹介したのは佐伯くんでしょ。無視しろっていうの」

直球な物言いにムッとして、私は眉間に皺を寄せる。
自分は他の女に告白とかされてるくせに。
私は話をするのもだめなのか。

「そんなに谷と仲良くなりたいの」

「そういうことじゃなくて」

「じゃあどういうこと」

「……もういい!仲良くなりたいでいい!」

しかし、佐伯くんも態度を崩さなかった。
さらに喧嘩腰に責められて、私はがたんと大きな音を立てて椅子から立ち上がる。
一瞬ラウンジが静まり返って、こちらに視線が集まった。
思わず怯んでしまったが、佐伯くんは私を睨んだままだったので、また腹が立って私は鞄を掴んだ。

「そんなに私が信用できないんだったらもういい。谷くんと仲良くなってやる!」

小学生みたいな捨て台詞を吐いて、私はラウンジを飛び出す。
潤、と怒ったような呆れたような佐伯くんの声が聞こえたが、私が振り返らずにそのまま家路についたのだった。

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