「あ、こんにちは」

そんな谷くんと再会したのは、次の週のことだった。
授業終わりにラウンジでお菓子を食べていると、偶然彼が現れたのだ。

「こんにちは」

「あ、えと、佐伯の友人です。この前会った、谷という者です」

「わかります。覚えてますよ」

ぺこぺこと挨拶をしてくれたので、私は思わず吹き出す。
私の言葉に、ありがとうございます、と彼はさらに腰を低くした。

「今日、佐伯は一緒じゃないんですか」

「ああ、今日はサークルです。私、友達待ってて」

「そうなんですか」

そう言ったっきり、谷くんは居心地悪そうにきょろきょろと周りの席を見回していたので、私は前の席を勧めた。
彼は少しびっくりした顔をしたが、礼を言って椅子に腰を下ろした。

「すみません、俺も待ち合わせしてて」

「ああ、そうなんですか。よかったらどうぞ」

「あ、ありがとうございます」

お菓子を勧めると、谷くんはぺこぺこしながら手を伸ばす。

謙虚な人だ。
佐伯くんはわりと図々しい性格だから、彼と相性がいいのはよくわかる。

「お友達と待ち合わせですか」

「いや、先輩と。同じバイト先の人なんですけど」

「これからバイトなんですか」

「そうです、乗せてけって言われてて」

「車で来てるんですか」

「いや、チャリです。恥ずかしながら」

なんだ二人乗りのことか。
こっちの勝手な勘違いなので、恥ずかしがることでもないが、谷くんは顔を赤くして頭を掻いた。

なんだか可愛い人だ。
微笑ましくなって、自然と口元に笑みが浮かぶ。

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