「いえ、とても格好いいです」

何も考えずに発した一言が原因だった。
黒縁眼鏡を掛けた素敵男子が、照れたようにはにかむ。
その顔を見て、私もへらりと笑みを浮かべた。

「潤ちゃん、ああいうのがタイプなんだ」

大学からの帰り道、隣を歩く佐伯くんが不機嫌な口調で聞いてくる。

「ま、まぁそうかな」

「わかるよ。谷、いい奴だし。真面目だし素直だし、顔も可愛いしね」

怯えながら曖昧に答えると、佐伯くんは嫌味ったらしく続けて言う。

まさか、こんなことで怒るとは。
謝るのも違う気がして、私は居心地悪く彼から少し距離を取る。

事の発端は、授業の終わりに待ち合わせしていたラウンジだった。
先に来ていた佐伯くんは友達と話をしていて、私も呼ばれてみんなに紹介されるハメになったのだ。

その中のひとりが谷くん。
佐伯くんの話によく出てくるが、ちゃんと顔を見たのは初めてだった。
色白、黒髪、黒縁眼鏡。
イケメン揃いの目立つグループの中で、谷くんは大人しそうな印象だ。

「佐伯に比べればカスのようなものなので、覚えてくれなくて大丈夫です」

と、謙虚にもほどがある自己紹介をして皆を笑わせていたほど。

それで、私は首を横に振って言った。
「いえ、とても格好いいです」と。

そして、何も考えずに言ったそれは本音だった。
格好良かった、というかタイプだったのだ、谷くんが。
佐伯くんはいつもの鋭さで、あっさりそれを見抜いていた。
そして、現在進行形でご立腹中というわけだ。

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