10


レジで渡された連絡先。
捨てようとしたところで現れた店長に、取り上げられてポケットに押し込まれた。
そして、翌日同じコートで潤と出かけた。
貸したそれを着た彼女は、そのままポケットに手をつっこんで……。

そこで、俺はがくりと肩を落とした。
くそ、すっかり忘れてた。
好人にバラされるまでもなかったじゃねぇか。

「心当たりがあるわけ?何してんのよあんた!」

俺の反応を見て頭に血が上ったらしく、花音が殴らんとばかりに掴み掛かってくる。
自省しながらもその手を払い落とし、俺は大きく溜息を吐き出した。

「捨てるのを忘れてただけだよ。もう断った」

「そんなこと言われて信じるとでも?」

「おまえの意見は聞いてない。潤と話す」

さらに詰め寄ってきた花音を押しのけて、さっさとその場から離れようとする。
だが、がしりと腕を掴まれた。
引き止められるて花音を睨むと、彼女もこちらを強く睨み返してくる。

「潤ちゃんはなんでもないって言ってる」

「は?」

「あんたはモテるし、こんなこともあるって。疑いたくないから、あんたには聞かないって」

そう知らされて、胸がつまる。
彼女の態度がおかしかったのも、それでも何も言わなかったのも、葛藤の証だったのか。

「潤ちゃんを泣かさないで!」

もう一度花音に怒鳴られて、今度は素直に胸に届く。
この女のほうが潤の傍にいる気がして、自分が情けない。
でも、それでも。

「おまえより、俺のほうが泣かせたくないって思ってる」

一言だけ告げて、今度こそその場を立ち去る。
それでも、この思いだけは絶対に負けないと確信していたかった。

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