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「潤ちゃんのこと、泣かさないでって言ったよね?」
サークルに顔を出そうと、一人でキャンパスを歩いていたところだった。
授業が終わるのを見計らっていたのか、突然校舎の影に引っ張り込まれて詰め寄られる。
「泣かせてないし。何の話してんの?」
腕を組んでこちらを見上げる花音に、そっけなく言い返す。
「あんた、他に女作ってんじゃないの」
ぎろりと睨みつけられて、まったく予想しなかった言葉に俺は眉間に皺を寄せた。
「だから何の話をしてんだよ?俺が潤以外の女を選ぶわけないだろ」
俺は思わず口調を荒げる。
花音は俺を睨んだまま返事をしない。
「……潤がそう言ってんのか」
それで、わかった。
俺の問いかけに花音が表情を歪める。
「潤ちゃんはそんなこと言わない。ただ、花音がそう思っただけ」
「じゃああの態度はおまえのせいか」
「違う!」
「だったらなんなんだよ。ちゃんと説明しろ」
今度は逆に、俺が腕を組んで彼女に詰め寄る。
最初からこの女に聞くべきだった。
花音は唇を噛んで、威嚇しながらも諦めたように吐き捨てた。
「女の連絡先、持ってたでしょ!」
「は?俺が?」
「コートのポケットに入ってたって!どういうことなのよ!」
そう言われて、あの瞬間がフラッシュバックした。
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