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もはや恒例となったやりとり。
くだらないとは自覚しているが、この女の顔を見ると何か言ってやりたくなる。
しかし、今日はいつもの潤のつっこみがなかった。
違和感を感じて彼女のほうに顔を向ける。
すると、こちらを見ていた潤がはっとしたように目を逸らした。
なんだ?この反応。
避けられたような雰囲気に、俺はほんの少し居心地の悪さを感じる。
それが俺だけのものかと思ったら、今までの騒がしさが不自然に静まる。
大人しくなった元凶に目を向けると、花音がじっとこちらを睨んでいた。
いつもの態度とは違う。
真面目な怒りを孕んだ様子だ。
「もう寒いしそろそろ帰ろ。花音、もう用事ないだろ?」
その俺たちの一瞬の金縛りを破ったのは好人の声だった。
手を取られた花音が、俺をさらに一睨みして潤に向き直る。
「うん。じゃあ潤ちゃん、また明日」
「あ、うん。またね」
今度はいつも通りの調子で、潤がひらひらと手を振る。
あの女に変わらない様子を見せるってことは、俺が何かしたということか。
煮え切らない思いを抱えたまま、少し時間を置いて俺と潤も大学を後にした。
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