客に渡された連絡先の書かれたメモを、ごみ箱の前でくしゃくしゃにする。
心の中でごめんと呟く。
潤を好きになってから、これまで当たり前に繰り返してきた行為が申し訳なく思えるようになった。
好きな人から選ばれない辛さを理解した。

「あーあ、いっけないんだー」

ひょいっと後ろから手が伸びてきて、俺は思わず肩を跳ねさせた。

「超美人だったのに、もったいない」

「覗き見しないでくれます?」

悪戯っぽく笑った店長を睨んで、俺はそっけなく言い放つ。
バイト終了後の休憩室。
最後に残った俺を追い出しに来たらしい。

「いやー、いいね。佐伯くんのおかげで客が増えたよ」

「だったら給料上げてくれませんか」

「売れ残り、君に優先してあげてるつもりなんだけどな。彼女好きなんでしょ?うちのケーキ」

「……じゃ、今日もいただいて帰ります」

「これも持って帰ってね。万が一店で捨てたの見られると困るから」

店長が丸めた紙を広げて綺麗に折りたたみ、俺のコートのポケットに押し込む。
俺は溜息をついて、すみませんと謝る。

「王子」なんてふざけたあだ名がつくくらいだから、自分の顔がどんなカタチをしているかなんてわかっている。
それによって何を得られて、何を失うかもよくわかっている。

二十年生きてその現状にうんざりしていたとき、出会ったのが彼女だった。
真面目で、一生懸命で、嫌になるくらい優しい人。
俺のことを、ちゃんと見てくれようとする人。

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