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くそ、はめられた。
恥ずかしくなってそっぽを向き、背を向けて歩き出す。
おかしそうに笑いながら、佐伯くんが後からついてきた。
「潤」
それでも振り返らずに歩いていると、名前を呼ばれ、ふいに体が傾いた。
そのまま抱き締められて、びっくりして動けなくなる。
「好き」
佐伯くんの腕に力が込められる。
「好き。大好き」
本気でこういうことはやめてほしい。もう暗いとはいえここは公園だ。
腕に触れて力を緩めてもらい、彼のほうへ振り返る。
「私も好き」
ぎゅっと抱きついて、すぐに離れた。
驚いた顔をした佐伯くんは、目が合うと頬を真っ赤に染める。
「反則ですよ浅倉さん……」
仕返しとばかりに、私は笑って歩き出す。
一気に疲れたように、彼は大人しくついてきて、並ぶと同時に自然に手を繋いだ。
「あ、そうだ。もういっこ」
ふと、佐伯くんが思い出したように口を開く。
「なに?」
「冗談でも他の男に好きとか言わないで」
そう言って、彼は拗ねたように口を尖らせる。
一瞬何を言っているのかわからず、それから好人くんとのやりとりを思い出して吹き出した。
私も佐伯くんも、些細なことで不安になるなのは大して変わらないのかもしれない。
これからはもっとちゃんと話をして、できるだけ一緒にいられたらいい。
佐伯くんの向こうで舞い散る桜の花びらを見ながら、私はそんなことを思った。
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