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佐伯くんの地元の駅に降りると、彼が改札で待っていた。
ぼうっと壁にもたれていたが、私に気づいてひらひらと手を振る。
「ごめんね、急に」
「いいよ。どうしたの」
「ちょっと話したいなと思って。今、大丈夫?」
佐伯くんは頷いて、近くのカフェと公園を交互に指差す。
公園を示すと、彼は私に合わせてゆっくりと歩き出した。
コーヒーを買って、ベンチに並んで座る。
もう薄暗くなっていて、人影もまばらだ。
「夜桜も悪くないね」
「うん、綺麗」
ベンチの傍にある大きな桜の木を見上げて、佐伯くんとぽつりと言葉を交わす。
まだ夜は寒い。
私が急に呼び出したせいだろう、佐伯くんはカーディガンを羽織っているだけだ。
「佐伯くん。今までごめんね」
コーヒーを一口飲んで、話を切り出す。
「誘ってもらっても断ってばっかりで、付き合ってても中途半端で。何もできなくてごめんなさい」
一気に言って、頭を下げる。
佐伯くんは、何も言わない。
そろそろと顔を上げると、彼はなんともいえない表情で私を見ている。
「その……私は一緒にいたくないわけじゃなくて。むしろいたいと思ってて。でも、だけど……」
「……だけど?」
「私、可愛くないから。一緒にいたら佐伯くんがかわいそうって思って。知り合いに会ったとき、居たたまれなくなるっていうか、視線が怖いっていうか、勝手にそんなことを考えて……その、すみません」
話しているうちにぐちゃぐちゃになって、最終的に謝罪に行き着く。
佐伯くんが大きく溜息をついた。
私は身を縮め、恐る恐る視線だけ上げる。
「……ふられんのかと思った」
そう言って、佐伯くんは自嘲するような笑みを浮かべ、くしゃりと髪を乱した。
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