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「私は人目なんか気にしないほうだから、潤ちゃんが女でもなんでもよかった。友達としてでも、一緒にいられればよかった。顔なんてどうでもいいことのひとつだよ。好きになっちゃえば」
カプチーノに口を付けて、花音が言う。
「あの人だって、花音が潤ちゃんのこと好きだって言ってようが、ずっと潤ちゃんの傍にいたじゃない。潤ちゃんだって顔で選んだわけじゃないでしょ」
「それは、まぁ」
「何も気にすることなんかないよ。あの人が潤ちゃんを選んだんだから。他の人に何か言われて黙ってるような男じゃないだろうし、こんなことで潤ちゃんと離れるような人でもないでしょ」
花音が笑う。
私はほんの少し口の端を持ち上げて、視線を落とす。
私は佐伯くんのことを考えているつもりで、自分のことしか考えていなかったのかもしれない。
かわいそうだなんてただの言い訳で、自分が傷つきたくなかっただけかもしれない。
佐伯くんは、このことに気づいていたのだろうか?
気づいていただろうな。
あの人は、他人の気持ちに敏感だ。
「……謝ります」
「うん、頑張って」
私が言うと、花音が頷く。
こういうとき、花音は大人だ。
素直で、まっすぐで、うらやましい。
「花音が佐伯くんの味方するとは思わなかった」
「ち、違うもん!花音は潤ちゃんの味方したんだよ!潤ちゃん泣かせたら許さないんだから!」
「そ?ありがと」
私が笑うと、花音もほっとしたように頬を緩める。
愛情の種類が変わっても、花音だって傍にいてくれる。
甘えてばかりじゃだめだ。
ちゃんと自分から動こう。
夕方、花音と別れた後、携帯を取り出す。
佐伯くんの番号を探して、一度息を吐き出す。
謝って、ちゃんと話をしよう。
気持ちを落ち着かせ、思い切って通話ボタンを押した。
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