3/10


「まさかみょうじが日向の従姉妹だったなんてな」
「私も、縁下くんがバレー部だってこと忘れてたからびっくりしたよ」

昼休みの特訓からの帰り道、私は縁下くんの隣にならんで会話をしながら教室へ向かっていた。私より背の高い縁下くん。こうして隣に並んで歩くのは同じクラスと言えど初めてで、その不思議な感覚に私は少しだけ緊張していた。

「翔ちゃん初日から迷惑かけたみたいで…」
「あはは。すごいの入ってきたなって驚いた」

苦笑しながらそう告げる縁下くん。本当に、どんな揉め方したんだと私も苦笑しながら相槌を打つ。脳裏には一人で突っ走る翔ちゃんの姿が浮かんで、さらに心配になった。

「多分、いや間違いなく今後も迷惑かけると思うからよろしくね」
「日向の姉ちゃんみたいだね、みょうじ」
「実質姉ちゃんみたいなものだから」

今頃まだ特訓しているであろう翔ちゃん、それでも面倒見のよさそうな先輩に恵まれていて良かったと心の中で安堵のため息をつく。

縁下くんと偶然会ったあの後、縁下くんと一緒にいた坊主頭の男の子(名前は知らない)がちょうど用事が終わったからと言って翔ちゃんの練習相手を替わってくれた。男の子が相手の方が翔ちゃんの練習相手としてもいいだろうし、せっかく入ったばかりの部活で先輩と仲良くなれるチャンスなんだからと思い、お言葉に甘えて練習相手を替わってもらったのだ。そしてそのまま翔ちゃんと坊主の彼に手を振り、縁下くんと一緒に教室に戻ることになった。

「あの縁下くんのお友達、いい人だね」
「ああ、田中?あいつはすごく面倒見がいいんだ。まぁ、さっきは多分みょうじが近くにいたからいつも以上に張り切ってたけど」
「?そうなの?」
「…みょうじ、意外と鈍いんだな」

私が首をかしげると縁下くんは笑った。今まで同じクラスでも接点はあまりなかったけど、縁下くんは人当たりが良いし話しやすい。とても接しやすいタイプだと思う。もっと早く仲良くなっておけばよかったなと思いながら、縁下くんと歩調を合わせて階段を上っていく。

「日向がさっき言ってたけど、みょうじはバレー部だったんだね」
「そうなの。翔ちゃん試合に向けて毎日特訓してるんだけど、今日は相手が見付からなかったみたいで、練習に付き合ってってお願いされたんだ」
「そうだったのかー。確かに、ちらっと見えたけどレシーブすごく上手かったよ」
「そんなことないよー、もうしばらくバレーしてないし」

さっき久々にボールに触って、レシーブをしたけれど以前みたいに素早い反応は出来ないし、かなし鈍ってしまったと感じた。体育の授業くらいしかバレーボールに触らない生活に慣れてしまったのだ。これから時々翔ちゃんの練習に付き合おうかな。運動不足にもならないだろうし。うん、そうしよう。

階段を上り終わり、2階の廊下に到着して教室までの短い道のりを縁下くんと二人で歩く。思ったよりも練習が早く終わっちゃったし、朝に買ったおやつ用のドーナツを今食べてしまおうかな。

「あ、そうだみょうじ」
「なーに?」
「そういえば連絡先知らなかったなと思って。教えてくれない?」
「確かにそうだったね!いいよ、これからお世話になると思うし」

良かった、とにっこりと笑う縁下くんに笑顔を返す。進学クラスはクラス数も少ないし、3年生になっても縁下くんと同じクラスになる可能性は高い。それになんとなく縁下くんとは気が合いそうだなぁって思ったのだ。二人で教室に入り、私は自分の席に置いてある制服のジャケットのポケットから携帯を取り出して、縁下くんのところに駆け寄った。

「……登録完了っと。ありがとう、縁下くん」
「こちらこそありがと。これからよろしくね」
「うん!」

連絡先がまたひとつ増えた携帯に喜びを感じながら席に戻る。ジャケットを羽織り、椅子に座ってかばんの中から買っておいたドーナツを取り出した。仲良くなれるといいな、そう思いながらかじったドーナツはいつも以上に美味しく感じたのだった。



優しい男の子