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――だって俺、怒鳴られ損じゃん?
先日の女子グループからの呼び出しからは数日しか経っていない。
あの日のヒステリックな怒りは、友達のためというよりは自分のためだったのかもしれない。やよいとかいう女との仲はどうなったのか。
そんなことを漠然と思ったが、大して興味もないのですぐに立ち消えた。
「嶋田!」
教室に向かう嶋田を、矢崎が呼び止めた。屋上から追いかけてきたらしく、軽く肩で息をしている。
「……何?」
怪訝そうに見返す嶋田の姿を上から下まで確認するように見て、矢崎は言った。
「お前さ、昨日赤坂にいた?」
――その話。
その話はしたくなかった。
知らないふりをして、上手く嘘をつくことも出来るはずだ。けれども、さっきの屋上での矢崎がフラッシュバックする。
こいつは好き勝手に女と遊んで、俺はその相手にいらない嫉妬をされもする。無意味に苛立った。
「関係なくない?別にいたっていなくたってさ」
言い捨てるようにして踵を返すと、矢崎が強く肩を掴んだ。
「いたのか、いねぇのか」
低く怒気を孕んだ声に射すくめられる気がした。矢崎の目は真っ直ぐに自分を見ている。面白がっている雰囲気でもない。
矢崎を見返し、溜め息を吐いて答えた。
「いねぇよ。……ていうか、アンタに何の関係があんの?さっさとあの女んトコに帰んなよ。こっちは良い迷惑なワケ、ちょっかい出されて無駄に敵視されてさ」
言いながら更に苛立ちがつのる。矢崎が自分を見たからと言って、だからどうするわけでもない。けれども今は無性に苛々してしまう。掴まれたままの肩から矢崎の手をを振り払って、もう一度背を向ける。
……関係ねぇじゃんか、アンタには。
少しだけ波立った感情を殺すように、嶋田は息を吐いて思考を沈めた。
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