「やぁだぁ、誰か来ちゃうよ」


笑い混じりの女の甘えた声が聞こえてくる。
いつの間にウトウトしていたらしい。扉の開いたことにも気付かなかった。下の階のベランダからも昼休みの騒がしさが感じられた。


「誰も来ねぇよ。来たって、構わねぇし」


……矢崎か。

聞きたくもない声と、その声で誰かが分かってしまう自分に苛立った。そのまま無視してその場にいても気が付かれないだろうけれど、昼間から同級生の濡れ場なんて聞きたくもない。
ヤり始めそうな雰囲気の中に、飲み干した紙パックを投げ落とした。

給水塔から降りていくと、扉のすぐ側に一組の男女。矢崎はゴミを拾い上げて近づいてくる嶋田が分かると、何故か嬉しそうに笑う。


「なんだ、いたのかよ」

「いちゃ悪いか」


表情を消して校舎内に向かう嶋田を、矢崎の視線が追う。それから、やや剣のある女の視線も。
ちらりとそちらを見た嶋田は一瞬考えた後、可笑しそうに笑った。


「……あれぇ、やよいと付き合ってるんじゃなかったっけ?矢崎クンって」


悔しさと恥ずかしさが混ざったような表情で顔をひきつらせる女に、嶋田はとびきりの営業スマイルを見せつける。


「素晴らしい友情じゃん?どうぞ、ごゆっくり」


いかにもわざとらしく、ヒラリと手を降って扉をくぐる。憎々し気な女の顔が愉快で仕方なかった。


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