翌日は良く晴れた空が広がっていた。嶋田は腰からくる気だるさに耐えきれず、教室から抜け出してきた。
保健室の気分でもなかったから屋上へと向かう。途中、自販機で紙パックのコーヒーを2つとカロリーメイトを買った。次の時限が終われば昼休みだった。


「……優しいんだけど、デケェんだよな」


屋上の給水塔の上に寝そべり、煙草を燻らせながら、昨日の客のことを思い返す。
ドイツ人のシュテファン。それが本名なのか偽名なのかは知らない。三ヶ月前からかなり頻繁に呼ばれているが、所詮、一時肌を重ねるだけの相手だ。余計な詮索をしてこないのも好印象の理由でもある。

身体を売ることは分かりやすくて良い。セックスは特に好きになれないけれど、身体を求められて、それへの対価が手に入る。金はいくらでも必要だった、血の繋がった他人と住む家から抜け出すためにも。

愛してると言われれば愛してると返す。微笑みの裏側には、あなたのお金を、と付け加えて。

嶋田の母親は多分、父親の愛人だったのだと思う。母親の記憶は全くない。義母――父親の本妻が悪意を込めて説明したところによると、母親は幼い嶋田を置き去りにして逃げ、別の男と一緒に交通事故で死んだそうだ。
本当かどうかなんて興味も持たなかった。ただ自分は望まれていないことだけを理解した。

母親によく似ている、と父親が褒める容姿が大嫌いだった。端から見れば整った、いくらか女性的な顔も。色素の薄い肌も髪も瞳も全部が嫌いだった。


(Yesterday I was dirty
 Wanted to be pretty
 I know now that I'm forever dirt)


そう、永遠に。
嶋田は自分も含めて誰も信じないし認めない。だから世間を怨んだり羨んだりもしない。全てが仕方ないことなのだから。


教室では少し汗ばむほどの陽気も、屋外の風は心地好く流れている。
閉じた瞼の裏を、太陽が真っ赤に染めていた。


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