気まずい沈黙が続いた後、アイツが口を開いた。
「……ごめん、お前、知ってるなんて」
「先輩は、悪くないんです!僕が、僕が先輩が好きで、……彼氏いても良いから、セフレでも良いからって――!」
アイツから謝りの言葉が出た瞬間、後輩が堰を切ったように喋りだした。
涙目になって、アイツを庇おうとする。
涙は止まらないのに、酷く可笑しくなった。
茶番にしか思えなかった。
俺にとっては後輩が悪で、後輩にとっては俺が悪で。
そんな簡単な図式で良いじゃないか。
なのにどうして、アイツを責めるななんて言うんだ。
俺ばかりが汚くて。
いたたまれない。
「……何だって、良いよ」
俺はポケットからキーケースを取り出した。
この部屋の鍵を外して、テーブルの上に置く。
ガラス製のテーブルは、耳障りな音を立てた。
「ちょ、っと待ってくれよ」
アイツの声はうろたえていて、焦っていて、情けない。
可笑しくて、アイツの顔を見た。
ああこの顔。
俺は、こいつが好きだ。
好きで好きで仕方なくて、どうしようもなくて。
俺だけを見ていて欲しくて、俺だけのものにしたくて。
だけどそれが出来ないから。
手に入れられないから。
惨めったらしく泣いて、恨み言を言って。
憎めるのなら憎みたいのに。
目の前のアイツの情けない表情ですら、こんなにも愛おしい。
「もう無理。辛いんだよ、あんたが、別の奴とヤるのとか、それでも俺を好きとか言うとか。マジでしんどい、ホントに」
忘れよう。
忘れてしまおう。
何でも予定を入れて忙しくして。
アイツの事を考える暇も無いくらいに。
「だからもう別れよう」
答えを聞く前に部屋を出た。
胸が張り裂けそうだ。
涙はとめどなく溢れている。
いい年した男がみっともない。
ああ俺は、どれだけ好きだったんだろう。
end.
20110223
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