「お前、何言ってっかわかんねぇよ!」
手加減もなかった。
熱いような痛みが襲って、少しだけ鉄の味がした。
唇と一緒に、俺の何かが切れた気がした。
「は?あんたの方が何言ってっかわかんねぇけど?俺、知ってるっつってんじゃん。あんたとこの後輩くんが、ここで、いつも俺が来る前にヤってんの知ってるから。バレてないとでも思った?毎回毎回、俺がどんな気持ちだったかわかる?殴りたいの俺なんだけど」
鼻の奥がツンとした。
涙なんて流したくない。
アイツの顔が見れない。
後輩の背中を見据えながら、この子に全部の罪を着せるように、俺は言葉を止められない。
「別に浮気ぐらい良いさ。するだろ、男だったら。けど悪びれもなくさ、普通鉢合わせさせる?普通隠すだろ、会わせねぇだろ、もっと上手くやろうとするだろ。もう信じらんねぇよ、お前の頭ん中、まじ信じらんねぇ」
止められない。
涙が溢れてくるのが止められない。
「全然信じらんねぇ。それでも俺のことが好きだから連絡してくるんだとか、キスしたりセックスしたりするんだとか、そんなん考えたり、お前のことばっか、考えてる自分が――、」
信じらんねぇ。
何でこんなに泣いてるんだ。
浮気されて、それでも好きだなんて言って。
もっとあっさり、それこそ飽きたからなんて簡単な理由を言って別れようとしていたのに。
どうしてこんな、惨めなことを言ってしまうんだろう。
部屋には俺が鼻を啜り上げる音しかしなかった。
アイツは黙ったまま、こっちを見ていた。
何も言わなかった。
それで良かった。
今どんな言葉が欲しいかなんて、わからない。
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