「別れよっか」
そう切り出したのは、満月の次の日だった。
あのやけに近くに見えた月が日に日に丸くなっていくのと同じように、俺の気持ちのしこりも大きくなっていた。
後輩の存在が、アイツの部屋の外にも溢れ出してきている。
もう、とどめておけない。
都合良く、その日は後輩が部屋にいた。
俺と会う前になのに。
一応、彼氏と会う前なのに、浮気相手を部屋に呼んで。
素知らぬ顔で彼氏と浮気相手を会わせて。
俺は自分がどんどん汚くなるのに耐えられなかった。
アイツと一緒にいないときに、アイツはあの子といるんだろうかとか、そんなことばかり考える自分が嫌だった。
恋人の浮気を知って、それでも自分が愛されているなんて信じられなかった。
浮気性ならまだ許せたかもしれない。
でもアイツは。
そうじゃない。
「は?何、お前意味わかんないんだけど?」
本当に俺の言葉が理解出来ないみたいに、アイツは眉根を寄せる。
「何って、そのまんま。別れよう、俺達」
疑問形ですらなく、実験の結果を発表するように淡々と言った。
後輩は何も言わない。
それでも気まずそうに俯くのは、俺とアイツの関係を知っていたからだろう。
「俺じゃなくて、この子と付き合えば良いじゃん」
「何、勝手なこと言って――!」
アイツは声を荒げた。
俺のことが好きだったんだろうか。
大切だと思っていてくれたんだろうか。
それでも俺の口は止まらない。
「勝手なことって、勝手なことしてんのはそっちだろ」
心臓が早鐘を打つ。
頭に血が上るのがわかる。
「俺、知ってるから。知ってたから。だから、もう無理」
けれど気持ちは、心は、揺れ動くのを拒否している。
波立たないように、胸をいっぱいに押し広げている。
胸が痛かった。
「ていうか、もう付き合ってた?俺の方が浮気だった?そしたらごめんね?」
俯いたままの後輩に言えば、肩をびくりと揺らせた。
そして俺はアイツに平手打ちをされた。
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