踏み出す勇気、なんてものは、アルコールなんかにはもらえないみたいだ。
どうして手を解いたのか、自分でも分からない。
きっとこの人は優しい。
それは分かってる。
でも、だけど……――。
頭で理解していることを心が拒絶する、なんてことはあるんだろうか。
好きでいることを止めたアイツなのに、嫌いになれないのは何でなんだ。
俺だってもっと楽になりたい。
こうして離れようとするのに、何かが邪魔をする。
その何かが何なのか分からなくて、苛立って、胸が痛くてしかたない。
そのままでいたらまた泣きそうだったから、断りだけ入れて、ろくに顔も見ずに席を立ってしまった。
(……情けない)
鏡の中の自分が本当に情けない顔をしていて、どうしようもなかった。
どうしたら良いのか分からない。
何をしたいのかも。
そんなことを考えていて。
藤原さんの前でどんな顔をすれば良いか悩みながら戻った時に、彼の姿がなかったことに少しだけ安堵して、もう少しだけ寂しかった。
しばらく一人でいたけれど、出井の奴はなかなか戻って来ない。
ナンパした女の子と盛り上がってるのか。
店の中はいつの間にか週末の賑やかさで、俺だけ何だか異質だった。
酒を何杯飲んでも酔えない。
いや、身体はちゃんと酔っ払ってるのに、頭の中がどんどん冷静になる。
……冷静なんかじゃない、考えても仕方のないことばかり考えてる。
飲みになんて出なきゃ良かった。
そう思ってしまうほど俺はやさぐれて、そんな自分に苛立ちが募った。
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