触れられた場所が熱い。
まるでそこに心臓があるみたいに、指先が脈打っている。
優しい笑顔だった。
だけど熱を孕んだ視線だった。
ああ、と思った瞬間には涙が溢れていた。
自分でも驚くほど静かに流れた涙に、俺は慌てて目元を拭う。
「うーわ、ごめんなさい。何でだろ」
「いえいえ、こっちこそごめんね?泣かせちゃった」
慌てる俺を面白がるように笑いながら、藤原さんは、必死に目を擦る俺の両手を絡めとった。
まだ涙も滲んでいるはずで、恥ずかしくて下を向いてしまった。
「ねぇ、もし良かったらなんだけど、もう少し山下くんのこと知りたいな」
藤原さんの声は心地好くて、店も騒がしくなってきたはずなのに、不思議と真っ直ぐ俺の耳に入ってきた。
駄目だったら仕方ないけどね、なんて冗談半分にも聞こえる口調で。
「――俺も」
何か深く考えてたわけじゃない。
冷静さなんてアルコールで飛んでしまっていたのかもしれない。
でも触れたいと思ってしまった。
大人の余裕に?
優しさに?
分からない、だけど俺は、目の前で笑ってくれる人に触れてみたいと、思ってしまった。
「俺、――」
彼を知りたい、彼に触れてみたいという気持ちは間違いじゃないだろう。
きっと藤原さんは俺に優しくしてくれる。
多分アイツみたいに俺を傷つけたりしない。
そんなことを考えてると、アイツの顔が浮かんで、胸の奥がチクリと痛んだ。
「……ごめんなさい、何でもないです」
俺はごまかすように笑って、藤原さんの手をそっと外した。
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