その後もアイツとの付き合いは続いた。
何もなかったみたいに。
二人で遊びに行ったり、お互いの部屋に泊まったり。
セックスをする日もあればしない日もあった。
アイツの部屋に行った時には注意深く見てみたけれど、浮気相手の痕跡はどこにも見つからなかった。
あれは見間違い、とは言えないけれど、一度の浮気くらい大目に見てやろうという気になった。
それからしばらく経って。
例の如くアイツの部屋に行く約束をした日。
部屋に着いてドアを開けると、あの靴があった。
浮気相手の、あの時と同じ。
え、また?
玄関で動けないでいるとアイツが出てきた。
「何、突っ立て」
入れよ。
その言葉にも反応出来なかった。
声が震えた。
「誰か、来てんの?」
「おー、後輩。すぐ帰るよ」
事もなげに答えられた。
アイツの髪は濡れていた。
シャワーを浴びた後なんだろう。
セックス、をした後の。
部屋に入ると、その後輩がいた。
人懐っこい笑顔を浮かべて挨拶をしてくる。
「はじめまして」
「あー、……どうも。アイツの、同期です」
俺は笑えていたんだろうか。
後輩は笑っていた。
知ってますよぅ、いつもお話聞いてます――本当に屈託の無い笑顔で。
こいつら今までヤってたんだろ?
なんで普通にしてられんの?
アイツと俺と。
彼氏と浮気相手と俺と?
キャパシティを超えていた。
何で、何でこんなに普通なんだ?
何で普通に笑えんの?
アイツの言葉通り、後輩はすぐに帰っていった。
部屋はいつもと変わりなかった。
ベッドは綺麗に整えられていた。
何もなかったみたいに。
俺はその日、初めてセックスを拒否した。
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