「山下、おまたー。って何故にメガネ?」
待ち合わせにきっちり五分遅れて来た出井は、開口一番そう言った。
まだ腫れぼったい目を隠したくて、買ったまま放置していた伊達眼鏡を掛ける俺に怪訝な顔をする。
「……流行りに乗って?」
理由なんて言えないから適当に返して、出井とよく行く店に向かった。
階段を降りた先の扉を開けると、賑やかな喧騒が溢れてくる。
週末だからか、満席ではないけど人が多い。
バーカウンターで生ビールを買って、手近の空席についた。
「で、どうしたよ?」
大型ディスプレイに流れるミュージックビデオを眺めている俺に、出井が前置きもなく言う。
――やっぱり分かるよなぁ。
俺は基本的にインドアだから、元からの約束なんかがないと休みの日に出掛けることは少ない。
一番仲の良い同期の出井だって、今日みたいに自分から呼び出すことは稀だ。
「いや、別に」
「何もないのに呼び出さねぇでしょ」
誤魔化すように煙草に火を点けると、出井は馬鹿にしたように笑う。
ぼんやりと、アイツと付き合うことになった時にもこうやって二人で飲んだことを思い出した。
相談というわけじゃなかったけど、他愛もない話をして、同性と付き合うことになった自分を消化したんだった。
「二日酔いなのに来てやったのよ?」
「だからー、何でもないって。飲みたい気分だっただけ」
二日酔いとか言う割には飲むペースの速い出井を睨む。
余裕綽々な顔に苛ついて煙草を揉み消すと、次の煙草を取り出す。
俺のつまらない意地なんて見透かしてるような笑顔に、ため息を吐いた。
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