「は、ひでぇ顔」
合コンの翌日は土曜日だった。
今日は何も予定がない。
泣いてから寝てしまったから、随分酷い顔になっていた。
百年の恋も冷める顔だと思う。
実際に冷めたのは俺だけど。
冷めてない、いや冷めた。
もう無理だ。
それはもうずっと前に決めた。
アイツのことを想うほど惨めになる。
だったらいっそのこと何も考えない方が良い。
アイツは酷い男だった。
それで良いじゃないか。
楽しかった思い出なんて、もう必要ない。
忘れようとするのが、どうしてこんなに大変なんだろうか。
心の奥底では忘れたくない?
はは、馬鹿馬鹿しい。
携帯の受話口からは流行りのポップスが流れている。
呼び出し音をこまめに変えるのは、出井曰わくモテへの第一歩らしい。
『……』
「おい馬鹿、起きてんの?」
音楽が途切れても無言な相手に声を掛ける。
『……山下?』
「そう、今日アタシ飲みたい気分なの」
だらだらと日中を過ごしても、全然気が晴れなかった。
だから気分転換に、出井を誘うことにした。
出井は電話の向こうで、いかにも寝起きな声を出している。
『……今何時』
「五時半」
『んー、じゃあ七時に渋谷?』
「オーケイ、愛してるよ」
誘いに乗ってくれた出井は、ハイハイ俺も俺も、なんて気の抜けた返事をした。
気晴らしの相手が出来たことに俺も小さく息を吐く。
一人部屋にいたところで、きっとまたつまらない事を考えてしまうだろうから。
女の子関係じゃなければ、出井は意外と頼もしい友人だったりする。
普段のチャラさで大分台無しになっているんだけど。
それから適当に時間を潰して、出井との待ち合わせに向かった。
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