「コイツが言った?」
俺は笑った。
きっと厭な笑い方だ。
「いえ、でも」
見てれば分かるって?
馬鹿馬鹿しい。
本当に馬鹿馬鹿しいな。
おかしいよ。
アイツもこの子も、俺も。
「あのさ、コイツと俺が別れたのって君のせいなんだけど。それ分かって言ってんの?」
「それは、……はい。でも」
可笑しいな。
笑えてくるよ。
本当に、なんでお前が言うんだよ。
アイツのことが好きなんだろ。
俺なんて放っといてくれれば良いのに。
「でも先輩、ずっと辛そうなんです」
「君が、慰めてあげれば良いじゃんか」
ずっとここにいるんだろ。
俺とは違って、出て行ったりしないんだろ。
悲しそうに悔しそうに、俯く後輩を見ていた。
胸の奥から冷えていく感覚がする。
「僕じゃ……僕じゃ、ダメなんです」
ぱたり。
ぱたりと、床に雫が落ちる。
後輩の瞳から涙が落ちていた。
それを見ても、何も思わなかった。
「なんで」
低い声が出た。
酔いで鈍った感情から苛立ちが溢れてくる。
「じゃあなんでさ、ここにいんの?」
なんでお前はここにいんの。
どうしてアイツの帰りを待ってんの。
なのにどうして、アイツが俺を好きだとか言うの。
「辛そうな先輩見てて辛いから?……俺に何しろっての?また付き合えって?前みたいに?」
言いながら苛立ちがはっきりとした怒りに変わり始める。
後輩をきつく睨んだ。
「ち、違っ、」
青ざめた顔で、後輩は緩く頭を降る。
何が違うんだ。
お前が欲しいのはアイツの笑顔だろう。
俺のことなんかに煩わされなくて、自分のことだけを見てくれるアイツなんだろう。
「で、お前とヤってんのをまたここで聞けっての?」
お前のために犠牲になれば良い?
名前も知らないお前のために?
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