ああ、やっぱり。
単なる電気の消し忘れとかじゃなくて。
あの靴はちゃんとそこにあって。
あの子はここにいる。
ここに、アイツと一緒に。
こうやって鍵を開けるのも。
玄関にあの靴があるのも。
あの時と一緒だった。
ものすごい既視感。
――はは、当たり前だ。
俺は経験している。
自分の目で見たんだ。
まだ覚えてる。
あの時を、あの日の感情を。
「先輩?」
アイツを支えたまま玄関に立ち尽くしていると、奥から後輩が出て来た。
驚いている。
そりゃそうだろうな、と自嘲気味に笑みが浮かんだ。
「潰れたんで、送ってきただけだから」
「……合コン、一緒だったんですか?」
見知った部屋着に身を包んだ後輩は、責めるように俺を見てきた。
呼び鈴鳴らせば良かったか、なんて意味のないことを思う。
この子と会いたいわけなんかない。
でもコイツは、放置するほど他人じゃないし。
「まあ、そんな感じ」
頼まれて誘ったんだけど。
でも同じようなもんだし、俺が誘わなかったら行かなかっただろうし。
言い訳めいたことばかり浮かぶ。
多分、自分に対して。
もたれ掛かるアイツを玄関口に座らせた。
後輩がいるなら俺の役目はここまでだろ。
「大分飲み過ぎだから、水とか飲ませてやって」
そのまま部屋を出ようとした。
部屋を出て、もう二度と振り返らないで。
アイツの存在を今度こそ忘れるように。
けれど後輩が、俺を呼び止めた。
非難するような目をしている。
「なんで、なんでそんな酷いことするんですか?」
酷い、こと。
俺がアイツを合コンに誘ったことが?
意味が良く分からない。
「どういう意味」
後輩はアイツを見て、俺を見て、またアイツを見て。
悔しそうに唇を噛んで、それでも口を開いた。
「先輩は、まだ――」
ああ、聞きたくないな。
多分想像していることだ。
でも聞きたくない。
アイツからならまだしも、この子からなんて聞きたくないのに。
「山下さん、のこと、好きなんですよ」
ああ。
やっぱり。
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