「うぅ、やま…した、ごめん」
タクシーを降りて、自立不可能なアイツを引きずるようにして、ようやく部屋の前まで来た。
もちろんアイツの部屋だ。
「うるさい、黙れ」
鍵、どこだよ。
俺にもたれ掛かるアイツのポケットを探った。
自然と向かい合う姿勢になってしまい、アイツの顔がすぐ近くにある。
首筋に熱い息がかかる。
何度も何度も、俺に謝る。
「山下、山下ぁ。ホント、ごめんなー」
「わかったから!ウザいよお前」
何に対しての謝罪?
お前を送ってきたのは、家を知ってるのが俺だけだったから。
水はマイさんがくれただろ。
介抱なんてしてない、ただ連れて帰ってきただけだ。
なのにお前は。
どうしてそんなに謝るんだよ。
お前、この部屋で後輩を抱いたんだろう。
俺と付き合ってたのに。
俺のこと、好きだって言ったのに。
俺もアンタが好きだったんだ。
自分で思ってた以上に。
だから許せなかったのに。
俺は、多分少しだけぎこちない手つきで、春日の頭を撫でた。
鼻先を俺の肩に埋めたまま、春日は何度も俺の名前を呼ぶ。
ごめん、と繰り返す。
子供みたいな仕草が、少しだけ笑えた。
苦笑じみた笑いを漏らして。
春日の背中を叩く。
泣いてる子供をあやすみたいに。
「もう、わかったから」
見つけ出した部屋の鍵にはキーホルダーが付いている。
俺も少し前まで付けていた。
ゲーセンで取った、お揃いのやつ。
俺はとっくに外してしまったのに。
春日は全然、歩き出せてないんだ。
あの日に俺がこの部屋を出ていった時から、何も変われてない。
何も変わってない。
だってほら、ね。
部屋には電気が点いてるし。
ドアを開けたら、きっとまたあの靴を見つけるんだろう。
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