それから、なんとかトイレからアイツを連れ出し、担ぐようにして店を出た。
まだ盛り上がっている出井たちを横目に、タクシーを止めようと通りを見渡す。
「大丈夫?」
マイさんが駆け寄って、どこで買ったのか、冷たいミネラルウォーターをくれた。
「あー、うん多分。潰れてるだけだから」
ありがとう、と受けとって、アイツの首筋に押し当てる。
少しだけ身じろぎをしたけど起きる様子もない。
くそ、重いんだよ。
「なんかごめんね」
しばらくして、やっと空車のタクシーが捕まった。
奥の座席にアイツを押し込んで、ずっと付き添ってくれていたマイさんに謝る。
別に悪いことはしてないと思うけど、一応、ってやつ。
マイさんは笑う。
にこにこ、という擬態語がそのまま当てはまるような笑顔で。
「仲良いんだね、二人」
「え?」
予想もつかない言葉に固まった。
俺とアイツ?
今日、どこをどう見てそう思ったんだ?
介抱した以外、話もほとんどしてないのに。
「それってどういう――」
「あ、みんな行っちゃうみたい。またね」
手を振って駆け出す彼女の背を見送ることしか出来ない。
呆然と立ち尽くしてしまう。
タクシーの運転手に促されて、ようやく行き先を告げた。
街の明かりが流れていく。
隣りでアイツは眠っている。
俺の頭の中は、別れ際のマイさんの言葉が渦巻いている。
仲、良いのか?
良く見えるんだ。
なんで?
(……別に見えても良いか)
考えるのも面倒になってきた。
人から仲良く見られても関係ない。
俺とアイツが別れた事実は変わらないし。
仲良さそうと言われても、だからまた付き合うってわけでもないし。
俺とアイツの関係は変わらない。
友達から恋人になって。
恋人から友達に、戻るわけなんてない。
そうなる程キレイな別れ方なんて、してない。
俺とアイツの過去は変わらない。
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