(……なんなんだよ)
アイツの視線が理解出来ない。
だから、俺はマイさんに向き直って話をする。
考えない。
気にしない。
アイツのことは何も。
(そもそも気にする必要ないし)
隣には可愛い女の子がいて。
煙草の値上げは厭になるよね。
でも止めらんないよね。
何、専攻してるの?
意外?そんなことないよ。
多少でも気の合う人がいれば、合コンも悪くないかも。
そんな他愛のない話をしていれば時間なんてあっという間に過ぎる。
出井が時折ちょっかいをかけに来るけれど、中指を立てて追い返した。
今、良い雰囲気だからほっとけ。
そんな空気を押し出して。
気がついたら、アイツの姿がなかった。
帰ったのか、誰かと抜け出したのか。
別にどうでも良いけど。
この店もそろそろ、時間的にお開きだ。
「――すいません、お連れ様がトイレから出てこないんですが」
マイさんと携帯交換しているところに、店員の声が割り込む。
は?
見上げれば、店員も困った顔をしている。
「うちの連れ?、ですか」
「はい、あちらに座っていた方だと思います」
指差すのは、アイツが座っていた席。
「春日だよー春日。あいつ、便所行ったまんま帰ってこねーの!」
ゲラゲラ笑いながら、顔を赤くした出井が言った。
酒に頬を染めた女の子たちも一緒に笑っている。
「は?」
アイツがいないうちに、アイツ狙いの女の子たちは出井たちと仲良くやっていたらしい。
聞けばアイツは率先してテキーラゲームを始めて、挙げ句に自滅。
だいぶ前から、トイレから戻っていないようだ。
え、俺が行くの?
和気あいあいと話を弾ませる出井たちは席を立つ様子もない。
困り顔の店員からのプレッシャーに、ため息が漏れる。
仕方がない。
舌打ちしたいのを堪えて、俺はトイレへ向かった。
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