課題に忙殺されて毎日を過ごしているうちに、別れてから三ヶ月近く経った。
もう普通に笑える。
何か喪失感がある気がする、でももうダメージは受けない。
ある日の学食で、アイツと会った。
「……久しぶり」
アイツは俺を凝視して、それから困ったような笑みを浮かべた。
「うん。元気?」
自分でも驚くくらい普通の対応をした。
胸が痛むこともない。
アイツのせいで泣いたことは、そんなこともあった、程度の過去の出来事。
アイツが寂しそうな目をした。
だけど俺は、それを無視する。
傷つけられたのは俺なんだから、アイツに優しくする義理なんてない。
でもどうして。
なんでそんなに、傷ついた顔をするんだ。
俺は見ない振りをする。
気づかない振りをする。
「山下ー、煙草ちょーだい」
不自然な沈黙は、友達の出井の声に破られた。
またかよ、そう言ってポケットの煙草を放り投げる。
出井はサンキューと笑って喫煙所に向かった。
「……煙草、吸ってんだ」
「禁煙する理由もなくなったしね」
アイツと付き合ってから煙草は止めていた。
アイツが嫌いだったから。
それだけの理由だった。
だから今は付き合う前のように吸っている。
アイツは何も言わない。
言いたそうな顔で、じっと見てくる。
俺は何も聞かない。
聞いてなんかやらない。
「じゃ、俺行くから」
喫煙所に向けて歩き出す。
アイツが俺を呼び止めた。
振り返れば、泣きそうなアイツと目が合った。
「あのさ、あん時は悪かった。ごめん」
そう言えば俺は、アイツの携帯を着拒したままだった。
大学でも多分無意識に避けていたと思う。
アイツはニコチンみたいなものだったんだと思う。
摂取を止めてから依存に気づく、みたいな。
禁煙で辛いのは最初の数日で。
それを乗り越えてしまえば、ないのが普通になる。
アイツも、それと同じだ。
さすがに始めのうちは違和感だらけだったけれど。
しばらく会わなかったら、俺の毎日からアイツはいなくなった。
そうやって会うのが久々だったから、今更の、浮気に対する謝罪。
俺は笑った。
「もう良いよ」
許すとか許さないとかの話じゃなくて。
もうどうでも良いよ。
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