時が経てば忘れる。
想いは風化する。
痛んでいた胸もいつの間にか元通り。
今では変わらない日常が続く。
けれどあの日にアイツの部屋に、何かを置いてきてしまった。
俺はそれに気づかない振りをしている。
結果を言えば、アイツと別れて、二週間引きこもった。
泣いて、怒って、寝て。
泣いて、苛立って。
泣いて、寝て。
何もする気力が起きなくて、悲劇のヒロインにでもなった気分だった。
時折、馬鹿みたいに叩かれる部屋のドアに怯えた。
アイツがすぐ傍にいる。
まだ好きでいてくれるんじゃないか。
謝って、許して。
また付き合って。
そんなことは出来ない。
したくない。
もう裏切られたくない。
信じたくない。
十日ほど経って、アイツは来なくなった。
ほっとした。
同時に、少しだけ悲しかった。
けれど現実は待ってくれない。
俺は単なる大学生で、課題の多い授業を履修していて。
久しぶりに出た授業で鬼のような課題を出されて、それをこなすので精一杯になった。
余計なことを考える時間がなくなった。
ありがたいことだったと思う。
時々、思い出すこともある。
アイツのこと。
アイツと一緒だったの時のこと。
浮気を知った瞬間。
別れた日のこと。
不思議ともう。
何も感じなかった。
多分、傷ついた心はこうやって修復するんだろう。
胸にぽっかりと空いた穴は、何かに覆われて、無かったことになっている。
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