『突撃取材! "祓本"夏油、熱愛を肯定!』

「傑さあ〜〜〜〜お前よくやんねホントさあ」
「なんの話?」
「すっとぼけんなよ、お前も目ぇ通したクセに」

 楽屋のテーブルに肘ついてニコニコ笑う胡散臭い相方に向かって読んでた週刊誌を広げて投げた。明日日本中に発売されるそれには堂々と傑の写真が使われ大きな見出しが付けられている。お陰で事務所内は大騒ぎ、マネージャーは皆出払ってる。よりにもよってスキャンダルを売りにしているこの週刊誌に載るとか。日本中の誰もが知る、噂の種にあらゆる葉っぱを勝手に付けてプライベートを詮索しまくるこの本にこれだけ大きく取り上げられちゃ、明日はもう取り返しのつかねえくらい話題になるんだろう。

「どーすんだよコレ」
「どうにもならないだろうね」
「んなこと知ってるっつーの。どう対応するつもりか聞いてんの」
「さあ、それは事務所のお達し次第じゃないか?」

 傑は俺の投げた週刊誌を手元に手繰り寄せ適当にページを捲る。その表情はどう見ても楽しげで、反省の色もなけりゃ困った素振りすらねえ。こいつ絶対撮られるためにここに居たんだろ。絶対コレに載ってやろうとしてたろ。つーかそもそも突撃取材に対してはいそーですなんて答えるバカ居るかよ。居たわここに。俺の相方だったわ。

「マジねーわ。俺まで追っかけられる未来しか見えねえ。控えめに言ってクソ」
「迷惑かけるね」
「謝るならもうちょいそのツラなんとかしやがれ」

 一面に載せられた写真にはどう見ても傑と、俺もよく知る女が手を繋いで歩いてる。どう見ても二人だ。スキャンダルなんか本気にしても仕方ねえし、暇人共の話題の種くらいにしかならないと思ってたけど、ガチガチの真実にデカいため息が出た。
「お相手は一般女性」「結婚を前提にデビュー前から交際」なんて根も葉もある本当のことがつらつらと書き連ねられ、出会いや職業、日頃の生活についてまで赤裸々に書かれている。こんなもん大概は全然繋がりのない数年同じ学校に通っただけの奴らが好き勝手言ってるだけの事が殆どなのに、この記事に至っては当事者本人の口から語られたっていうんだからどうかしてる。普通言わねーだろ。俺でもわかるわ。

「で、何でわざわざこーんな回りくどいことしたわけ」
「さて、なんの事かな」
「つまんねー芝居打つなよめんどっちいな」
「はは、今日の悟はご機嫌ななめだね」
「傑が勝手するからだろーが」
「悪かったよ」

 傑はページを弄りながら声に出して笑う。何も考え無しにこんな無防備にどっかほっつき歩くような奴じゃない。それもアイツを連れて。アイツのことを撮られんのを一番嫌がってたのは傑だし、無関係な奴らに騒ぎ立てられるのも嫌がってた。そんな傑がわざわざ今更こんなめちゃくちゃするなんて、明日槍でも降るんじゃねえかと思った。
 傑は飽きたように冊子を閉じて肘をついた。

「彼女、職場でどうも言い寄られてるみたいでね」
「は?」
「恋人が居るって言っても、相手が私だろ? 写真を見せろと言われても、会わせろと言われてもそんなこと出来ないだろ」
「……で?」
「鬱陶しいなと思ってね。一つずつ潰すのは面倒だし、ならもう日本中に紹介してやろうと思って」
「はあああ〜〜〜?」
「彼女は顔隠されてるけど、場所と彼女のざっくりしたプロフィールと、この全身の雰囲気でよーくわかるだろ? とりあえず彼女の職場に知れ渡ればそれでいい」
「いや良くねーわ!」

 俺の相方は想像より理性的にぶっ飛んだ奴だった。何したり顔で言ってんだこいつ。

「あいつはそれでいいっつったワケ?」
「困った顔してたよ」
「だろーな!」

 いくら何でもやり方が強引すぎて俺でも引いた。いつもファンに対してああしろこうしろ、スタッフに対してはこうしろああしろ、ああだこうだと言ってくるくせに自分はコレかよ。やっぱお前ちょっとイカれてんぞ。
 困った顔のあいつが浮かぶ。可哀想にな、明日あいつはこの報道を見てどう思うんだろうな。まさか自分の恋人がヤキモチ妬いた結果、必死に隠してきた全部を世間にばら撒くとは思わねえだろうな。

「傑って陰気だよな」
「失礼なこと言うなよ。私は大事な恋人が悪い虫に晒されてるのが我慢ならなかっただけだよ」
「傑のファン粘着質だから逆に女にいじめられてカワイソーなことになんじゃねーの」
「はは、それにはバンバン法的措置を取っていくよ。そもそも私はアイドルじゃないし、自由恋愛の許された身だから他人にとやかく言われる筋合いはないね」

 傑の行動力に頭を抱える。まあ実際の傑の言う通りだ。傑は何にも悪いことをしちゃ居ないし、今後考えられる弊害も面倒なだけでいくらでも解決のしようがある。ただただ面倒だということだけだ。その手間も惜しまないくらいアタマにキてたんだろうなと察することは容易だった。

「あーめんどくせえ。もういーわ、好きにやってろ」
「悪いね悟。そのうち埋め合わせするからしばらく付き合ってくれるかい?」
「仕方ねーから恩を売っといてやるよ」
「頼もしい相方だね」

 机に思い切り脚を乗せて椅子をきいきい揺らして遊ぶ。俺が今更なにを言ったところで明日この週刊誌は日本中に読まれるし傑はそれを期待してるわけだ。ジタバタしても仕方ねえし、ジタバタする気にもならねえ。考えるだけ無駄ってやつだ。

「でもあいつ、否定して回るんじゃねーの? 意味あんのコレ」
「まあそうだろうね。これで駄目なら直接挨拶に行こうかな。彼女の会社まで」
「コッワ」
「それからプロポーズして、私の結婚公表と合わせて彼女には寿退社してもらおう」
「いやいやいやいや」

 相方の徹底した考えに思わず椅子から転げ落ちそうになる。
 ダメだこいつ、ニコニコしてるけどマジギレじゃん。

「……あいつもバカだな〜〜〜こんな面倒な男にひっかかってさあ」
「本当に可哀想だよね。私なんかに捕まっちゃって」
「自分で言うなよお前ホントそういうとこな」

 翌日テレビは各局傑の熱愛報道で持ち切り。案の定どこに行ってもどっかのなんとかって記者が俺たちを待ってて、傑はそれにニコニコと受け答えしてやがった。
 興味本位であいつに連絡取ってみたら「もうこの会社に居られないかもしれない」なんて言って助けを求めてきた。仕方ねえから「諦めて専業主婦にでもなれば」と返しておいた。

根も葉もあれば花もある
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