今度は花道を共に行こう

「ほ、ホントに…っ!!本当によか、っ良かった…!!」

「た、炭治郎…ありがとう泣き止んで…」

どうしよう。まさかこんな事になるとは思ってなかった。
ずっと気にかけてくれていた炭治郎に、義勇さんと恋仲になったことを伝えたら炭治郎は大粒の涙を零しながら嗚咽混じりに泣き出してしまった。
炭治郎がこんな風に泣いてるところを見るのは初めてで正直物凄く慌ててしまった。一体何に泣いているのかわからなくて、どうしたのかと聞けば「良かった」とばかり言葉にするものだから具体的な理由はわからないけれど、私は炭治郎に物凄く心配を掛けていたのだということだけはしっかり解った。

炭治郎は私が義勇さんのことを好きなのだと最初に気づいた人だった。
数少ない同期の中でも、炭治郎とは一番長い付き合いになる。それは炭治郎が義勇さんと同門出身であるということだけでなく、炭治郎自身の人柄が影響している。
炭治郎は私たちの中で最も優しくて、親切で、素直で、思いやりを具現化したような人だ。
たった数名の同期の中で、雰囲気からして一番話しかけ易そうな子に私は「一緒に頑張ろうね」と声をかけたのだ。それが炭治郎だった。炭治郎はあの時、もう全身ボロボロで草臥れていたというのに私に優しく笑って「君が居るなら心強い!」と手を差し出してきてくれた。まだ名前も知らなかったけど、すぐに思った。彼と仲良くなりたいって。
炭治郎が義勇さんと同門出身であるということはあとから知ったことだった。
任務先で出会ったり、同じ任務だったりそういういくつかの偶然と、私が先生の元でお世話になることになることが決まったあと炭治郎がわざわざ足を運んでくれるようになった優しさが、私と炭治郎の関係を作った。
その中で、私が義勇さんの話をして、炭治郎が恩人の話をして、そうやって私と炭治郎を結んだ新しい繋がりを知った。それを知るのに時間はかからなかった。私が義勇さんのことを沢山話しすぎたから。
共通の知り合い、義勇さんが居ることがわかったとき、炭治郎は「名前は冨岡さんのことが好きなんだな」と柔らかく笑ってくれた。匂いでわかる、と炭治郎はいつも言って、私が何かを話す度に改めて実感するように言う炭治郎に私は「義勇さんが大好き」だと返していた。
炭治郎には、先生と同じくらい義勇さんの話をしていた。炭治郎は本当に聞き上手で、私の話を大切に聞いてくれるから、つい。
炭治郎は先生と同じくらい、私を応援してくれていた。励ましてもくれた。
一生炭治郎とは仲良くしたいし、きっとそうなると思う。禰豆子ちゃんもひっくるめて。
だから炭治郎にはちゃんと自分で報告しようと思っていた。

「う、っおれ、…俺…!!」

「た、炭治郎〜…」

まさか炭治郎がこんなに泣くほど心配を掛けていたなんて。
確かに、炭治郎には色んなとこを見られたし、色んな相談をしたし、思えば大きな負担をかけてしまっていたのかもしれない。そう思うと物凄く申し訳なくて胸がぎゅっとした。

「…ごめんなさい、いっぱい心配かけちゃったよね…」

「っそうじゃ!!なくて!!」

「ひえ」

炭治郎に勢いよく肩を掴まれる。ぐっと近づいた距離に驚いたけれど、それよりも炭治郎が顔をくしゃくしゃにして泣いてることの方がやっぱり気になった。

「……おれ、ずっと…名前が幸せになってほしいって、思ってて…!!」

「…え、」

「名前の恋が、報われればいいのにってずっと、ずっと…っ」

炭治郎は涙ながらに話を続けた。
いつも炭治郎は私をたくさん元気つけてくれたから、炭治郎が私の恋を応援してくれていることは勿論知っていたし、甘えていた。
だから今日こうして炭治郎に報告にきたし、きっと良かったなと笑ってくれるだろうと思っていた。

「……俺は、名前が冨岡さんのことを好きだって、一生懸命なのがすごく…かっこいいなって思ってて」

「…うん」

「名前が、冨岡さんのことになるとなんでも幸せそうに笑うのが、恋をするってこんなに素敵なことなんだって…そう思ってたんだ」

「…そうなんだ」

「……でも、名前が……名前が冨岡さんを想って、辛そうに笑うのも…恋をしているからなんだって思うと…俺じゃどうすることも、出来ないって思って」

炭治郎はごしごしと羽織でその顔を拭って私にぽつぽつと話してくれた。
時折しゃくりあげる声が優しくて、さっきまで申し訳ない気持ちでいっぱいだった胸の内が溶かされていく。

「名前は、笑ってる方がいい。そう思うのに、俺じゃどうしてやる事も出来ない事がたくさんあって、」

「そんなことないよ、いっぱい助けて貰ったのに…」

「いや、本当に…何も出来なかったこともたくさんあったんだ」

「何も出来なかったから名前は知らないだけだ」と炭治郎は付け加えて眉を下げた。
そんな顔しないで欲しい。私は確かに炭治郎に助けられてきたのに。それ以上のことをしようとしてくれていたというの?だとしたら、優しすぎるよ。
そう言いたかったけれど、炭治郎は私の言葉を必要とせず私をじっと見つめて話し続けた。

「…名前に憧れてたのかもしれない。人を愛するとこんな風になれるのかって。名前は俺にはとびきり眩しく見えてたんだ」

「う、そ…それはちょっと言い過ぎだよ…」

「今日くらい言わせてくれ」

炭治郎から余すことなく私に降り注がれる言葉に、くすぐったさが度を越して流石に居心地が悪くなってきた。
私はそんな立派は人間じゃないけれど、炭治郎は嘘を言う人じゃない。そんな風に本当に思ってくれていたのだと思うと、照れるなんて所の話じゃなかった。

「…そんな名前の想いが報われないなんて、物凄く辛かった。俺が憧れたものが、手を伸ばしたものに届かなかったなんて、見てられなかったんだと思う。そのくらい、名前は頑張ってたから」

「そんなこと、…私はワガママだっただけだよ。結果として、義勇さんに受け入れて貰えただけで…」

「うん、解ってる。名前ならそう言うと思ってた。けど…誰かに恋をすることがこんなに素敵なことなんだって教えてくれたのは間違いなく名前なんだ」

ありがとう、と炭治郎は続けた。
まだ涙を薄ら目に溜めたまま、弾けるように笑った炭治郎がとびきり眩しく見えた。
炭治郎は私に憧れたと言って、私が眩しかったというけど、そうあれたのはこの笑顔に助けられてきたからだ。

「私が真っ直ぐであれたのは、私一人の力じゃないよ。転びそうになる度に、炭治郎が、先生が、小芭内さんやしのぶさんが…色んな人が私を支えてくれたからだよ」

「名前……」

「炭治郎が私に、義勇さんのことが好きなんだなっていっぱい笑ってくれたから、頑張れってずっと傍に居てくれたから、諦められなかったの、諦めたくなかったの」

今度は私がありがとう、と続けた。
沢山悩んで、沢山泣いた。でもいつも一人じゃなかった。なんて私は贅沢なんだろう。
義勇さんなしに生きてはいけないと思っていたけど、当たって砕けたって私にはちゃんと帰る場所があって、一緒に泣いてくれる人が居るって知っていたから、強くいられたんだ。
この恋の傍にはいつも、私のことを大切にしてくれる人が居た。

「私、本当に幸せものだなぁ。ちょっと怖くなっちゃうくらい、幸せだ」

噛み締めるように呟く。言葉の通り、私には勿体無いくらいの幸せが目の前に、周りに溢れている。
この出会いが奇跡か運命か、なんだっていいけどただ一つ分かることは、どれ一つ失えない特別なものだと言うこと。こんな幸せを知ってしまった今、どれももう手放せなくなってしまった。

「私、もっともっと強くなるね。義勇さんだけじゃなくって、炭治郎も先生も、小芭内さんもしのぶさんも、皆守れるようになるんだ。私の大事なもの全部守れるように、強くなるよ」

いつか炭治郎がしてくれたように、決意を込めて拳を差し出す。
何か一つでも欠けてしまうと、私は私で居られなくなる気がするから。私が私でなくなってしまうような気がするから。そのくらい、私には全部が大切で、私という生き物を構成するにはこれら全てが必要なんだ。
もっともっと強くなろう。私の大切なもののために、私のために。

「……俺も、強くなる!名前に背中を預けて貰えるように、一緒に大切なものを守れるように、頑張るよ。一人より二人の方が強いに決まってる!」

こつん、と炭治郎が私の拳に炭治郎の拳を合わせた。
私より少し大きな拳。手の甲にはいくつかの切り傷、その内側の手のひらには沢山潰れたマメがあることを私は知っている。頼もしい手だ。
炭治郎は笑っていた。私がずっと助けられてきた笑顔が目の前で輝いてた。

「名前の大事なものは、俺にとっても大事なものだ。俺も一緒に守っていきたい」

「……ありがとう、炭治郎…大好き!」

「俺も名前が大好きだ!」

くすぐったくて二人で小さく笑った。
無敵な気がした。どこまでも強くなれる気がした。
炭治郎が一緒なら、きっと出来ないことはないだろうなって、大袈裟かもしれないけど確かにそう思った。
いつだって誰にだって、優しく強く寄り添う炭治郎に、私もこうなりたいと、心の底から強く思った。
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