「愛を確かめようと思います!」


「ここにたくさんの鮭大根があります。」

「それは…見れば解りますけど…」

「…なんだ急に」

義勇さんのお屋敷で私は頑張ってここまで持ってきた鮭大根たちを広げてみせた。義勇さんは広げられた鮭大根たちを不思議そうに見ていた。
義勇さんのお屋敷に来る途中にたまたま出会った炭治郎くん、善逸くん、伊之助くんも丁度いいと思って連れてきてものの、炭治郎くんはともかく善逸くんは居心地悪そうにしているし伊之助くんに至っては鮭大根を見てお腹が空いていたのか私の話もそこらに手で掴んで食べようとしていた。私は手を伸ばしてきた伊之助くんの腕を掴んで止めた。

「ここで問題です。」

「…急だな」

「どれが私の作った鮭大根でしょうか」

「…は…?」

義勇さんは私の言葉に首を傾げてみせた。なにこの美丈夫、こんな整ったお顔をしていらっしゃるというのにそんな可愛い仕草ができるというの?もう私は驚きですよ義勇さん。

「どれが、ってことは…名前さん以外の方が作ったものも混じってるんですか?」

「ご明察、その通り。この中のどれか一つが私の作った鮭大根です!」

炭治郎くんが言った通り、この並んだ鮭大根たちの中に一つだけ私が作ったものが混じっている。他の鮭大根はいろんな人のものだ。仲良くしてもらってる隠の人や宇髄さんのお嫁さんたち、仲の良い同期たち、とか。具材の切り方やお出汁の色まで少しずつ違うそれらはどれもいい匂いがしている。正直なところ私も自分が作ったものしか解らない。誰がどれを作ったのかもう解らない。ごめんなさい皆さん。

「…一体どういうつもりだ」

義勇さんはまだ全然なにも解ってない顔をしていた。
私が今日いきなり義勇さんの元に鮭大根をたくさん持って訪れた、事の顛末はこうだ。


この間、宇髄さんから任された任務の報告に行ったときにお嫁さんたちのご好意でお夕飯を一緒にご馳走になった。私はそれはもうるんるんでお言葉に甘えた。お腹も空いていたし、お屋敷にお邪魔した瞬間からいい匂いがしていたから。
匂いの通り、美味しいお夕飯をつつきながら宇髄さんがおかずを口に入れたあと「これはまきをだな?旨い」と言ったことがきっかけだった。
なんと宇髄さんは、誰がどれを作ったのか解るという。私の目の前に並ぶお料理を端から端まで一つずつ誰が作ったのか当ててみせたのだ。もう驚愕どころの騒ぎではなかった。
宇髄さんは愛がどうとか、俺はどうだからとか色々言っていたけど私の頭の中はそんなことより私の恋人の義勇さんは私の作ったものを当てられるのだろうかということでいっぱいだったので全く宇髄さんの話を覚えていない。ごめんなさい宇髄さん。
むくむくと興味は膨れ上がり、私はその場ですぐにお嫁さん方に鮭大根は作れるか尋ね、その場の勢いで「うちの義勇さんの愛を確かめようと思います!」と鮭大根食べ比べ大作戦を企てた。


「と、言うわけです!」

「つまり俺たち巻き込まれたってこと…?」

「そうだよ」

善逸くんは顔に出やすい。明らかに面倒という顔をしてみせた。そう言わずにちょっとだけ付き合って欲しい。だってこんなにたくさん義勇さん一人じゃ食べきれないだろうしこういうのは皆でやった方が盛り上がると私思うんだ。

「だぁ〜〜!!!食っていいならさっさと食わせろ!!」

「そうだね、説明も済んだし早速始めよう!ね!義勇さん!」

私の鮭大根当ててくださいね!と祈りを込めて付け足せば義勇さんは鮭大根たちを眺めているだけで返事らしい返事はくれなかった。ずっと私に腕を掴まれていた伊之助くんが痺れを切らして暴れだしたのでぱっと離してやると勢いよく鮭大根に手を伸ばした。「いただきますが先だよ」とその手をぺちんと叩くと「だあ〜〜!!」と言葉にもなっていない声をあげた。




「うーん…」

「どーお…?」

「あ、どれも美味しいです!でもどれが名前さんのものかが…」

「炭治郎だったら匂いでわかるんじゃないの?」

「お出汁のいい匂いの方が強いからそこまでは流石に難しいな…」

この鮭大根の食べ比べなんか気にもせずがっついて食べてる伊之助くんと黙々と好物の鮭大根を食べる義勇さんの隣で炭治郎くんと善逸くんだけは真面目に当てようとしてくれていた。
こっちの鮭大根を食べて、あっちの鮭大根を食べて、もう一度こっちの鮭大根を食べる炭治郎くんは物凄く頭を抱えて考えてくれていた。ありがとう、すごく嬉しい。

「も〜〜当てる前にお腹いっぱいになっちゃうよ俺〜〜」

「がんばれ善逸くん!応援してる!」

「きい〜〜!!名前さんそう言えば俺が思い通りになると思ってんでしょお〜〜!!??俺頑張る〜〜!!!」

善逸くんは畳にごろりと転がって私の言葉にジタバタと暴れたもののまたお箸を持ってちびちびと色んな鮭大根をつまんでくれた。
ちらりと義勇さんを見るとこんな二人に動じることもなく綺麗なお箸使いで鮭を解して口に運んでいた。食べる表情はどことなく嬉そうに見えた。本当に鮭大根が好きなんだなあと微笑ましく思いつつ、義勇さんが今食べている鮭大根は私のものではないと確認するとなんだか悔しい気持ちになった。義勇さんは私に見向きもせずに食べ続けた。

「あ"〜〜!もうわかんない!コレ!!??コレですか!?名前さんの作ったやつコレでしょ!?ねえ!?」

「む、俺はこっちかなと思ったんだけど…」

「エェ〜〜!?ヤダこっちって言ってよ炭治郎食べ物相手に音なんか聞こえないから俺わっかんないよねぇそっち!?そっちが名前さんのなの!?」

「食わねえなら寄越せ!!」

「お前はちょっとくらい考えろよ!!!」

もはや私の話は聞いていなかったらしい伊之助はおいておいて、炭治郎くんと善逸くんはそれぞれ違うものを選んだ。残念ながらそのどっちも私のものではない。
流石にこれだけたくさんあったら食べているうちに解らなくなるだろうし難しいかなあと今さら私も頭を抱えた。大騒ぎする善逸くんは炭治郎くんが選んだものに選び直すと言い、炭治郎くんは俺もあんまり自信はないんだとあせあせしていた。

「…これだろう」

「え?」

可愛い後輩たちを見守っていたら突然義勇さんが私に言葉を投げ掛けてきた。その声につられて皆ぱたりと喋るのをやめてしまい、義勇さんに視線が集まる。
義勇さんの手元には他のものに比べると少し細かく具材が切られ、よく浸った鮭大根があった。義勇さんは黙って見つめる私たちをよそに、お箸で鮭をつまんで口に運んだ。
間違いなく、それは私が作ったものだった。

「あっ、えっ…え?」

驚きすぎて言葉にならない声を出してしまった。義勇さんはそんな私に不思議そうな視線向けてもぐもぐと口を動かしていた。なんだか可愛い。

「すごいですね…!こんなにあるのに当てられるなんて!」

「嘘ォ〜〜〜〜〜〜………超能力かなんかでしょじゃないとこんなのわかんないってェ……」

まだ私は正解ともなんとも言っていないのに炭治郎くんと善逸くんは義勇さんを褒め称えた。「名前さんのにおいでわかりました!」と炭治郎くんは私に言葉をさらに添えてにこにこと笑った。私の感情もにおいでわかるの?炭治郎くんすごすぎない?

「な、なんでわかったんですか…?」

「……何故……」

色んな興味と期待を込めて義勇さんに問えば義勇さんは手元にある私が作った鮭大根を一瞥し、私の質問に相応しい答えを思案しているような表情を見せた。何か決定的な理由があったわけではないらしい。答えには自信があったように見えたし、てっきり何か具体的に違いがあったのかと思ったのに。本当に超能力でも使ったの?水の呼吸ってもしかしてそういう型があったりするの?

「名前さんの鮭大根が一番美味しい、とかですか?」

「あぁん?!それが一番うめえのか!?」

炭治郎くんが助け船を出すように義勇さんにそれらしい理由を投げた。ありがとう、本当に君は優しい子だね、お姉さんもう涙が出ちゃいそうだよ。炭治郎くんの言葉に、完全にただご飯を食べているだけだった伊之助くんが騒ぎだして義勇さんの手元にある鮭大根目掛けて暴れだす。

「…どれも美味かった」

義勇さんは飛びかかってきた伊之助くんを顔色も変えずに片手で抑え込むと炭治郎くんのせっかくの助け船を無下にした。そこは嘘でもとりあえず肯定しておくところだと思います。本当に不器用にも程があると思いますよ私。とは思うもののこういう人だ。素直な人だからお世辞を並べるなんて似合わない人なんだ。そういうところが好きだからいいんだとどことなく悔しい気持ちを握りこむように拳を作った。

「…ただ、」

「?」

「……俺は、名前の作るものが好きだ」

思わず「ひぇ…」と言葉になってもない声が出た。義勇さんにしては解りやすい言葉というか、ちゃんと会話が成り立つ答えがあまりにも直球で私を貫いた。不意打ちに全身から力が抜けて握りしめた拳もほどけた。
つまり、義勇さんは私が作ったものが好物だから一番好みだと思ったものが私の作ったものだと解ったということでいい?ちょっとばかり誇張したかもしれないけどいつも言葉の足りない義勇さんの言うことを拾ってきた私にはそう聞こえたからもうこれが答えということで許されたい。そういうことにしてください神様。私は義勇さんの胃袋を完全に掴んでいるということですよね神様。
その鮭大根を寄越せと未だ暴れる伊之助くんに義勇さんは相変わらず涼しい顔で抑え込み「これはやらん」と少し鬱陶しげな声で返していた。

「義勇さん〜〜!!!好き!!大好き!!」

急に私の感情は大爆発した。これが巷で言う好きが溢れるということなのかもしれない。もて余した感情に悶えて苦しくなってきた。義勇さんに思わず飛び付くと「食事中だ」と伊之助と同じくさらりと受け流されてしまった。

「私一生義勇さんに美味しいものを作り続けますから!!お嫁にしてくださいね!!」

堪らずしおらしさも淑やかさもないような言葉が飛び出していくと義勇さんは一瞬ぽかんとしたものの、嬉しそうに少しだけ目を細めて「ああ、」とだけ言ってくれた。





「何これェ〜〜…俺何に巻き込まれてんのぉ…」

「すごいよなあ、なんだかこっちまで幸せな気持ちになるな!」

「ウソでしょ俺気分最悪なんだけど何が好きで目の前でいちゃつかれなきゃなんないわけあ〜〜〜〜あ!!!!クソ!!!!!」

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