傍らの愛情を感じる

「名前」

「!小芭内さん、こんにちは!」

先生のお屋敷に戻って2日ほどたった日の午後、今日は午前から先生は調査任務があるらしく、一緒に朝食事を取ってご出立された。お帰りは早ければ今晩、遅くなると明日になるとのことで、私は稽古も任務もない日になってしまった。ひとまず、先生がいないこのお屋敷のお掃除をやってしまおうと思いお屋敷中をくまなく磨いたあとお庭、そして玄関周辺の掃き掃除をしていた。
落ち葉を掃き集めていたら後ろから私を呼ぶ声がして振り返ると蛇柱の伊黒小芭内さんが居た。
私は掃く手を止めて小芭内さんに挨拶をした。

「掃除か、偉いな」

「へへへ、今日は先生が居ないので1日しっかりお屋敷の家事をしてお帰りになった先生を驚かせようかと!思いまして!」

「甘露寺も喜ぶだろう。」

「だったら嬉しいです!」

「とは言え、ずっと掃除してたのか?少し休憩したらどうだ。お前の好きな茶菓子を持ってきたぞ」

「え!ほんとですか!わーい!」

小芭内さんは手に持っていた風呂敷を私に差し出すとお屋敷の中へと歩きだした。私はそれに着いていく。小芭内さんも会いに来てくれたし、休憩にしよう。

小芭内さんとの出会いは勿論先生がきっかけだった。
どう見ても先生のことが好きじゃない、この人!と私は初対面で手に取るように解ったのを覚えている。
こうして今でこそ、先生が居なくても私に会いに来てくれる小芭内さんだけど、出会って最初は物凄く苦手で会うのが嫌だった。
小芭内さんは最初から物凄く私に構ってきて、先生と距離を詰めるために私に媚を売っているんじゃないかととても疑心暗鬼になった。だって小芭内さん、他の人にはとっても口が強いんだもん。だから最初はできるだけ逃げていたのだけど、紆余曲折あって、今の仲に至る。
小芭内さんは正直、ものすごく私に甘いと思う。優しいというレベルを少し超えているのではないかと思うのだけど私としてはとても嬉しいので甘んじてその恩恵を受けている。
会いに来てくれるときは必ず毎回違うお菓子を持ってきてくれる。今日は何を持ってきてくれだんだろう。

小芭内さんをお屋敷に招き入れて居間へ通した。
小芭内さんはいつも同じ場所に座る。そして私も同じ場所に座る。

「開けていいですか?」

「構わん」

今日は一人で過ごす予定だったけど、朝小芭内さんの鴉が先生の元にいつものお手紙を届けるついでに私に今日こちらに顔をだすつもりだと伝言を鳴き言ってまた小芭内さんの元へ戻っていった。
先生がお屋敷を少しだけ空けることを知っていたのかもしれない。先生も私をお屋敷に残すときはとても口酸っぱく戸締まり、火の始末など危ないから気を付けるようにと何度も行ってから発たれる。私だってもう子供という程の年齢でもなければ一人で任務にも出られるというのに何故かお留守番に関してはとても先生は心配性だった。
だから小芭内さんが来てくれたのかな、と勝手に解釈している。別に平気なのになあ、と思うのだけれど、広いお屋敷に私一人より絶対に誰かと一緒の方がいいので小芭内さんのご好意に大いに甘えた。

風呂敷をほどいて中を覗くとすごく美味しそうなカステラが入っていた。わあ、と思わず声をもらすと気に入ったか、と小芭内さんが言った。

「はい!ありがとうございます!とっても美味しそう!」

「好きなだけ食べるといい」

「わーい!」

綺麗に焼き上がっているカステラからは甘くていい匂いがした。
こんなにたくさんは食べられないし、きっと先生も食べたいと思うので今は少しだけにして、先生が帰ってきたら一緒に食べようと思う。


私は小芭内さんに見守られながらお茶を用意し一緒にカステラをのんびりつついた。
この間の任務のことや、藤の花のお屋敷のこと、それから義勇さんに会いに行ったことなど、小芭内さんが最近はどうだ、と聞くので話をした。

「名前、お前また冨岡に会いに行ったのか」

「はい!義勇さんがとっても大好きなので!」

「聞きあきたぞそのセリフ」

「何度言っても足りないんですよ!」

「なんでよりにもよってあいつなんだ…」

小芭内さんは、というより柱の方のなかには小芭内さんみたいに義勇さんをよく思ってない人がいるらしくなんで義勇さんなのか、と度々聞かれる。
柱の皆さんの関係は先生から聞いたり、実際に見ている身としてはそこまで悪くないと思うし小芭内さんもこうは言っているけど別に義勇さんが嫌いなわけじゃないのだろうと思っているのであまり気にしてはいないけれど。

「考え直せ、お前にはもっと相応しい男がいる」

「そう言われて何度考えてもやっぱり義勇さんだな!と結論着きます!小芭内さん!」

「考えが足りないのだお前は!」

「小芭内さんが怒った〜!」

机をバン、と叩き声をあげる小芭内さんが面白くてつい笑ってしまった。笑い事じゃないと小芭内さんがつらつら何か言っているけどいつものことなので笑って誤魔化してカステラをぱくりと口に入れた。

「全くお前は…」

「義勇さん、今は任務に出られてるんです。怪我なく帰って来てくれるといいんですけど」

「ふん、……運だけは強い奴だ。癪だがな。」

こうして仲良くお話しできる仲になってから解るようになったことは、小芭内さんはどれだけ私に義勇さんはやめておけと言っても私がこうして義勇さんの話をするといつもの憎まれ口も私に心配をさせない言葉を選んでくれているのだということ。
小芭内さんも誤解されやすい人だと私は思っているのだけど、多分それで間違いない。とっても優しい人だけど、義勇さんと同じで言葉で誤解を受けてしまいがちなのだと思う。

「…ふふふ、小芭内さん、ちょっと義勇さんに似てますよね!」

「おいどういう意味だ今すぐ撤回しろ流石の俺でもその言葉は許せないものがあるぞ」

「あーあ!先生も義勇さんも早く帰ってこないかなー!」

「俺の話を聞いているのかさっきからお前は!」

小芭内さんとそうしてお喋りをしていたらそろそろご飯の用意をしなくちゃいけない時間になった。
小芭内さんはお前は危なっかしいと言って私が支度をしているのをずっと見てた。
小芭内さんはそのあと、先生がお戻りになるまで一緒に居てくれた。
そういうところですよ、言葉にしなくても、私にはよく解りますよ。

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