高鳴りを巣食う人

「ごめんください!」

私と炭治郎は先生に持たされたお団子を携えて義勇さんの住まうお屋敷に足を運んだ。行き道で咲いていたたんぽぽを見ながら善逸の話をしたり、食べ過ぎて伸びていたので挨拶もそこそこにほったらかしてきた伊之介の話をしたりして。
門の前に立ってお屋敷に向かって声をかけた。いつもこの瞬間から少しずつどきどきする。返事を待たずに私は門をくぐり玄関ではなくお庭に繋がる方へと抜けた。

「義勇さん!」

「…名前、炭治郎」

「お久しぶりです!」

縁側に顔を出す義勇さんが見えた。義勇さんは私たちを見つけても相変わらず表情を変えず縁側へと出てきた。義勇さんのお庭には私が前に勝手に植えたいくつかの花が種から芽を伸ばしていた。
義勇さんの方へ駆け寄り義勇さんを見上げる。お変わりなさそうでよかった。怪我もしていないように見える。
私の後を歩いてきた炭治郎が「さっき戻ってきたんです」と義勇さんに声をかけた。

「そうか」

「義勇さん居てよかった!会えた!」

「…来る前に烏を飛ばせばいいだろう」

「烏の帰りを待つ時間が惜しいじゃないですか!それに烏に行っても会えないなんて言われたら寂しい!」

「わざわざ来て無駄足よりいい」

「来る時に居るかどうか会えるかどうかそわそわするのも楽しいんです!」

確かに、義勇さんが今任務で居ないかもしれないのなら烏に聞いて確かめてもらう方が早いし確実なのだ。そんなことは最初からわかっているのだけど、それはなんだかつまらなくて、いつもいきなり遊びに来てしまう。
勿論、留守だったことも、別の来客があったりしたこともある。来たはいいもののとんぼ返りすることもしばしばある。
急に来られて迷惑かと思ってちゃんと烏を飛ばさないと困るかどうか、義勇さんに聞いたことがある。そういうわけでもない、と義勇さんはいつもの調子で言うので好きなように会いに来ている。

「甘露寺さんからお団子を頂いたんです。よかったらお茶にしませんか?」

「先生のおすすめなんですよ!」

「そうか」

炭治郎が縁側で持たされたお団子を風呂敷から解くと義勇さんも縁側に腰かけた。どうやら一緒に食べてくれるらしい。それだけの時間はあるようだ。
私は嬉しくなって靴を脱いで縁側にあがり、持ってきたお茶を持って台所に向かう。

「私お茶淹れますね!」

「ああ、頼む」

「ありがとう名前!」

嬉しい。義勇さん、今日はお屋敷にいらっしゃるんだ。門から声をかけたときのドキドキは更に大きくなって今にも踊り出してしまいそうだった。
町で見つけたお茶の葉は開けただけでとてもいい匂いがした。
義勇さんのお口に合うかな。いや、絶対合うと思って買ったんだけど、いざとなると少し不安というか、気になってしまうものだ。
いつもそう。たくさん練習して美味しいお料理を作れるようになっても食べてもらうときは緊張するし、可愛いと思って手に入れた髪飾りを使っておめかししても可愛く見えるかとても不安になる。
そういう、少しの不安と期待が楽しいのだと思う。

実家で教わった美味しいしお茶の淹れ方の通りにお茶を淹れるととてもいい香りがしてきた。私のどきどきは止まらない。
もう踊り出してしまっていると言っても過言じゃない。


「お待たせしました!」

お盆を持って縁側へ戻ると義勇さんと炭治郎が並んで座っていた。炭治郎がまたありがとうと私に声をかけるとそのあと義勇さんが悪い、と一言私に言った。
先生から頂いたお団子はとても可愛い淡い色をしていた。お茶の香りがさらに美味しそうに見せた。

「いい匂いだ。名前がこの間買ってたやつか?」

「そう!炭治郎と一緒に選んだんですよ義勇さん!」

「そうか」

義勇さんが湯飲みを私から受けとるとそのままそっと口に運んだ。
私が作ったわけではない、選んで淹れただけ、ただそれだけなのにまるで自分が丹精込めて作ったものをお出ししてるような気分にすらなった。

「…ん、うまい」

「!えへへ、義勇さん好きかなと思ったんです!」

私にはわかる。義勇さん、ちょっと笑った。嬉しい、すごく。
ドキドキが一瞬止まってきゅっとした。
炭治郎にも湯飲みを渡すと同じようにそのまま口に運び本当だ!と笑ってくれた。私は何故かわからないけど褒められているような気がして自慢げになってしまった。
先生から頂いたお団子をつまみながら私たちは今回の任務でのこと、そのあとの藤の花の家紋を掲げるお屋敷でのことを義勇さんに話した。
義勇さんはたまに相槌を打ちながらお茶を啜っていた。

「あのとき名前が助けてくれなかったら危なかったかもしれないな、ありがとう」

「ええ、炭治郎なら私の助けなんかいらなかったと思うよ」

「そんなことない、俺はいつも名前に沢山助けられてるぞ!」

「そんなの私もそうだよ〜!やっぱり四人での任務はそれなりのものが多いね。皆大事なくてよかったよ。」

一人でこなす任務よりも四人での任務の方が規模も鬼も段違いに大変だなと思う。仲間のありがたさを知ったし、四人でやっとこなせる任務もあるのに柱の先生や義勇さんたちは単独任務もすごく多い。今の私たちではとてもじゃないけど任せてもらえない任務がたくさんある。
もっともっと強くならなくちゃ、先生の、義勇さんの背中は遠いなと笑い話にしながらも思った。

「名前、炭治郎」

「?はい!義勇さん!」

ずっと私たちの話に相槌を打っていた義勇さんが私たちを呼んだ。炭治郎から義勇さんへ視線を向けると義勇さんが私たちを見ていた。義勇さんを見つめ返すと義勇さんは少し目を細めた。

「よく戻った。強くなったな。」

少しだけ暖かい風が通り抜けて頬を撫でた。私は少し驚いてしまったが、炭治郎も黙ってしまったあたり、きっと同じだ。
胸の内側からじんわり焦げるように熱くなってどきどきした。
義勇さんから、そう言ってもらえることを予想して居なかった。

「…褒めて、くれますか?」

いつもならすんなり出てくる言葉も少し震えた。褒めて、と言えば義勇さんはいつも何も言わずに撫でてくれる。褒めろと言われて褒め言葉等簡単には出てこない、ましてや義勇さんは超言葉足らずで寡黙な方だ。でも義勇さんはいつも優しく撫でてくれる。先生もよく撫でてくれるけれど、それとはまた違うのだ。だからいつも褒めて下さいとねだるのだ。褒めてくれると知っているから。優しい手のひらを感じられるから。

「…ああ、よくやったな」

「!…ふ、ふふふ。ありがとうございます!義勇さん!大好きです!」

「…はは、よかったな、名前!冨岡さん、ありがとうございます!俺たちもっともっと強くなります!」

義勇さんはいつも通りぽん、と私の頭に手を置いて撫でてくれた。どきどきなんかもう聞こえない。それどころじゃないくらい嬉しくて頬に集まる熱とか、堪えきれない笑いがどうしようもない。崩れ落ちそうな頬を手で抑えた。
炭治郎も吹き出すようににこにこ笑っていた。義勇さんにお礼を言うと宣言するように拳を握っていた。
頑張ってよかった。生きてかえってこれてよかった。義勇さんが変わらず居てくれてよかった。
ああ、最高だな。幸せだな。

あと少ししたら先生の待つお屋敷に戻らなきゃならないから、あと少し義勇さんの手のひらに甘えたい。

そうやっていつも貴方は私の心に住んで、私のどきどきを掬っていってしまうの。

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