おかえりをくれる人
「先生〜!」
「名前ちゃん!お帰りなさい」
「只今戻りました!」
「もう怪我は平気なの?痛いところはない?」
「えへ、勿論です!」
任務を受けて二週間がすぎた頃だろうか、藤の花のお屋敷での療養を経て私たちは次の任務の伝令もなかったので一度戻ることにした。とは言っても自身の家ではなく、私は勿論先生と慕う師範の恋柱である甘露寺邸へ。炭治郎たちも一先ず一緒に戻ってきた。
朝藤の花のお屋敷を出て丁度お昼頃か、お屋敷の敷地が見えだしたのとあわせて門の前に先生が立っているのが見えた。先生を目掛けて駆け出すと先生が軽く腕を開いて走り寄る私を抱き止めた。
帰れる頃がわかったときはいつも鴉を予め飛ばしておくようにしているから先生はいつも私の帰りをこうして待っていてくれる。先生がもし私が任務の間にご出立されるときは鴉を飛ばしてくれる。だから今日こうしてお出迎えがあることを私は勿論知っていた。
いつものように、帰ったときに必ず聞かれる、必ずすると言っても過言ではないやり取りを終え、あとから私においついた三人を見てぱっと花が咲いたみたいに笑った。
「皆とってもすごいわ!偉いわ!本当にお疲れ様」
先生の激励に炭治郎はありがとうございますと軽く頭を下げ、善逸はいつもの調子で何か呟きながらもじもじしていた。伊之助は腹が減った!と先程から騒ぎ立てていたわりに先生が誉めてやるとどんなもんだとばかりに声をあげて笑っていた。
「お腹すいたでしょう?ご飯にしましょう!」
「わーい!」
「すみません、俺たちまで」
「皆で食べた方が美味しいわ!さあ上がって〜!」
屋敷に入った瞬間からとてもいい匂いがした。やっと戻ってこれたこと、今回も皆生きてることを実感した。
先生が用意してくれていたご飯を皆で囲んだ。先生も伊之助もものすごくたくさん食べるし善逸は相変わらずだし炭治郎は丁寧にお箸で食事を進めつつも食べたものの感想をさらりと言って退けていた。
藤の花のお屋敷で皆で食べたご飯も美味しかったけど、お家で皆で食べるご飯は何倍も幸せを感じる。
「名前、ついてる」
「んえ」
「アーーー!!!また炭治郎が!!!抜け駆けする!!」
「名前はもう少し食べないとダメだと思うぞ。ほら、これも美味しいし沢山食べなきゃ。よく噛むんだぞ。」
「ちょっと無視しないでよね俺傷つくんだけど!?」
「善逸、お箸で人を指すんじゃない!」
「あーーはいすいませんねえ!!!ごめんなさいねえ!!」
「ふふ、炭治郎くんたら名前ちゃんのお兄ちゃんみたい!」
本当に、炭治郎は私のお兄ちゃんみたいだ。私にお兄ちゃんは居ないからなんだか嬉しい。歳は変わらないのにしっかりしてるなあ。
そんな私たちを見ていた先生がニコニコ笑いながらお箸を進める様を見て伊之助は何故か闘志を燃やしていた。
「俺の方が!!!いっぱい食う!!!」
「わ〜!私も負けていられない!いっぱい食べて元気をたくさんつけなきゃ!」
先生がたくさん食べている姿を見るのは久しぶりでなんだか暖かい気持ちになった。帰ってこれてよかった、改めてそう思った。私は先生が大好き。
いつもニコニコしていて、強くて、優しくて、暖かい先生が大好き。
そう思わずには居られなかった。別にたった二週間だったのに。二週間以上帰ることができなかったことだってたくさんあったのに。帰ってくる度にそう思うのだ。
「よかったな名前」
声をかけられて隣に座っていた炭治郎を見るととても優しい目で私を見ていた。
何かと気にかけてくれる炭治郎にこの二週間で何度か早く帰りたいと溢していた。その度に炭治郎は私を元気づけてくれた。
炭治郎が本物のお兄ちゃんなら最高だったな。妹に禰豆子ちゃん、それも最高だなあ。
「うん!ありがとう、炭治郎」
「俺は何もしてないぞ。」
「いーや、お兄ちゃんにはお世話になりっぱなしです」
「また、名前までそんなことを」
炭治郎が困ったみたいに笑う。
後で陽が高いうちに炭治郎と一緒に義勇さんを訪ねよう。任務に出ちゃってるかもしれないけど、もしかしたら会えるかもしれないし。
なによりも早く会いたいし。炭治郎だって、義勇さんに会いたいと思うし。
善逸は誘ってもいつも義勇さんにはあんまり会いたがらないし、伊之助を誘うと義勇さんを手合わせに取られちゃうから今日は留守番させよう。
そう思うとわくわくしてきてしまって、炭治郎が食べるようにと寄せてきたお皿にお箸が進んだ。
「炭治郎、このあと一緒に義勇さんのところ、行こ」
「ああ、そうだな。そうしよう。」
「ゲッ早くない?今度でいいじゃん」
「名前ちゃん冨岡さんの所に行くの?ふふ、可愛いわあ!会えるといいわね!そうだ、美味しいしお団子があるの!持っていってね!」
案の定善逸はとっても嫌そうな顔した。伊之助と食い比べをしていた先生は少し箸をとめて私の方を見ていつも私が義勇さんの話をするときに見せる少し悪戯なようにも見える笑顔を見せた。その先生の向こうでは先生に負けじと食べていた伊之助がもう食べられないとばかりに伸びていた。
「あんまり遅くなっちゃダメだからね?今日は私と一緒に夕餉を取る約束!」
「はい!先生!」
「じゃあちゃんと送り届けないとだな」
「まあ!炭治郎くんは素敵ね!かっこいいわ!名前ちゃんをよろしくね!冨岡さんにもよろしく伝えて!」
「はい!」
お天気のいい日でよかった。先生が持たせてくれるお団子と、こないだ町で見つけたお茶を持って義勇さんと炭治郎とお茶をしたいな。
義勇さん、会えたらいいな。